政権エリートたちの「努力至上主義」
この造語がよく使われるようになったのは2015年以降で、ネット上に「ヘル朝鮮」というコミュニティサイトが開設されるや、就職難、失業、差別、貧困、政府の政策に対する批判などが次々に書き込まれた。進学から就職問題まで、日々直面している韓国社会の現実がつらくて地獄のようだと訴える書き込みが相次いだ。
そんななか、2019年1月、大統領府の金顕哲(キム・ヒョンチョル)経済補佐官の発言が物議を醸した。
「就職できないだのヘル朝鮮だの言っていないで、ASEANに働きに行ったらどうか。あっちからみれば『ハッピー朝鮮』だ」
彼の発言は、若者から猛反発を受けた。
朴槿惠前大統領の「中東に働きに行け」発言と同じ発想であり、就職難は若者のマインドに問題があるかのような口ぶりだったからである。
政権エリートたちは、自らの成功体験から「努力すれば何とかなる」「頑張れば報われる」と若者を叱咤し、「努力不足だ」と切り捨てる。
生まれつきの不平等を実感している韓国の若者たちは、努力至上主義の精神論を振りかざされるたびに「ならば、公正な競争をさせろ。機会は平等であり、過程は公正であり、結果は正義に見合う社会にしてみせると、文大統領は宣言したではないか」と怒りを露わにする。
留学経験者が多すぎて就職が決まらない
有力市民運動団体「参与連帯」幹部のキム・ソンジンは、「人は誰でも自分が落ち着くところで働きたいものだ。若者だって自分が生まれた土地で暮らし、韓国語で会話し、働き、恋をして、夕食後の散歩を楽しみたいだろう。海外進出といえば聞こえはよいが、その国では『外国人労働者』だ。若者たちが不幸せで、悩まされていて、再生産活動まであきらめるようでは、大韓民国の未来はない」と批判する。
勉強熱心で高い語学力やスキルを身につけた韓国の若者は、世界を舞台にグローバルに活躍できるチャンスがあるという点で、日本の若者より選択肢が多いと指摘する向きもある。ただし、それは本人が積極的にそう望み、突出して優秀な人材であれば、の話である。
米国など海外の有名大学で学位を取得する若者は多く海外志向も強いが、現地で職に就こうとしても、労働ビザが取得できずに帰国を余儀なくされている人もまた多い。やむをえず帰国しても、留学経験者の層が厚すぎて、なかなか就職が決まらない。国内の大学を卒業した学生は、海外で職を探せと追い込まれている。これが現状である。
かつてないほど高学歴となった韓国の若者を、中小企業で働くよう誘導する政策を続けるのか、海外に送り出す政策により力を入れるのか。