ブルーカラーのない韓国キッザニア
これから韓国は未曽有の少子高齢化が進む。若者が国内で生活できずに海外流出が続けば、人口構造はさらに歪なものになることだけは確実である。
長期の失業状態に陥っても若者が中小企業ではなく大企業への就職にこだわる理由は二つある。一つは、企業規模により処遇水準に大きな格差があるためである。そして、もう一つは、職業威信の序列が韓国社会に広く内在化されていることである。職業威信とは、職業への主観的な格付けを示す用語だが、社会での地位のあり方の尺度の一つとなる。
小学生に大人気の「キッザニア」という職業体験型テーマパークがある。キッザニアはメキシコ発祥の施設で、世界19カ国で展開している。韓国と日本のキッザニアでは体験できる「お仕事」に、顕著な違いがみられる。
韓国のキッザニア(ソウル)にはあるが、日本のキッザニア(東京)にはないもの(2020年10月当時)は、国家代表選手、難民支援機関スタッフ、国税庁公務員、考古学者、科学捜査班、漢方医などである。逆に、日本にはあって韓国のキッザニアにはないお仕事は、大工、地下鉄運転士、車両整備員、バスガイド、ガードマン、ガソリンスタンド店員、宅配ドライバーなど、いわゆるブルーカラーの職業が多い。
日本にあって韓国にないお仕事について韓国の母親は、「子どもに就かせたい仕事でないと意味がない」「下手に興味を持たれても困る」「こんな職業体験だったら高い入場料を払ってまで別に行かせたくない」とにべもない。
「お父さんの仕事は?」と「ひきこもり」
OECD(2015年)は「韓国の若者の教育水準は最高ランクだが、雇用率が42.3%でOECD加盟国平均の52.6%より低いのは、大企業・公共部門に就職しようとして資格取得に没頭している若者が多いためだ」と指摘する。
韓国では友人宅に遊びに行けば、その家の親から「お父さんは何をしているのか」と訊かれる。そうしたささいなことでも、親の職業によって値踏みされているような感覚を、子どもの頃から感じて育つ。
韓国政府が海外就職を若者の雇用拡大の突破口として考え出したのも、こうした背景があるからだ。海外であれば企業の規模や序列を知る人も少なく、他者視点からある程度自由になれる。無職でいるよりは聞こえもいい。
近年、韓国でもようやく、「隠遁型ひとりぼっち」と称される「ひきこもり」が可視化され、「隠遁型ひとりぼっちの父母の会」が設立されるなど、社会問題として注目されるようになった。
『中央日報』の試算によれば、韓国内にはひきこもり状態の人が約32万人と推定されている。うち7割が20代である(『中央日報』2020年2月11日)。
専門家は、韓国のひきこもりに若者が多い理由について、親の期待に応えなければという強迫観念が強く、そのストレスでひきこもりになるケースが多いと指摘する。多様な生き方を尊重する社会的雰囲気をつくることが解決の糸口となる、という提言もされている。