※本稿は、松永正訓『発達障害 最初の一歩』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
5歳半でオムツをはいたまま
5歳半のミキちゃんが私のクリニックを受診しました。大柄なお父さんが椅子に座り、ミキちゃんはお父さんに抱っこされています。かたわらにお母さんが背筋を伸ばしてスッと立っています。
私は問診票に目を落としました。3カ月前からミキちゃんは便秘だそうです。立ったままオムツに便を出すと言います。5歳半でオムツ、そしておとなしくお父さんに抱っこされている姿。私はミキちゃんに「こんにちは!」と声をかけてみましたが、返事はありませんでした。私に対して関心がないというような表情です。
お母さんが説明してくれました。
「ミキは自閉症なんです。こだわりが強くて、うんちをしないと決めるとなかなかしないんです」
「ああ、そういうことですね。これまではどこのクリニックで診てもらっていたんですか?」
お母さんの答えは、千葉市から遠く離れたX市のクリニックでした。
「え、そんな遠くから来たんですか? 大変だったでしょう? これまではどういう便秘対策をしてきたんですか?」
2週間後、再びやってきたミキちゃん
私はお母さんから話を聞いて、少し便秘の治療を整理してみることにしました。
「飲み薬は酸化マグネシウムの1種類に絞りましょう。夕食の後に飲んでください。寝ている間に便が緩くなります。翌朝、朝食を食べると大腸が反射で動きますので、その反射を利用して柔らかい便を出すのです。ただ、ミキちゃんは、こだわりがあるから我慢してしまうかも。そのときは、座薬を入れてください。そして最低でも二日に1回は便を出してください。便を出させないと、便が出る子になりません。まず、2週間やってみましょう」
それから2週間後、ミキちゃんは両親と共にクリニックにやってきました。前回と同じように、お父さんに抱っこされています。
「どうですか? 酸化マグネシウムを飲んでみて?」
お母さんが答えます。
「やはり座薬を使わないと出ないんです。二日に1回座薬を入れています。でも座薬を入れれば必ずうんちは出ます」
「それはいいですね、とにかく出すことが大事です」
「はい、食べる量も少し増えました。便が出ているおかげだと思います」