第二次大戦がなければ二流の政治家だったチャーチル

ウィンストン・チャーチル
ウィンストン・チャーチル

——著書『悪党たちの大英帝国』では、第二次世界大戦の英雄であるチャーチル首相も、「悪党」の一人として取り上げられていますね。

名門貴族出身のチャーチルは、周知のとおり、第二次世界大戦で卓越した戦争指導を見せ、また歴史家としても『第二次世界大戦』を著してノーベル文学賞を得ており、1999年末に発表された「20世紀で最も偉大な首相たち」でも見事1位に輝いています。

一方で、若い頃から多くの失敗を犯し、特に第一次世界大戦においては「ガリポリの悲劇」と呼ばれる軍事作戦の失敗で、海相を辞任するという大失態を演じています。もし第二次世界大戦が起こらなかったら、チャーチルは二流の政治家という評価で終わっていたでしょう。

 

ガンディーに対して「ぞっとするほどの不快感を与える」

——失敗が多かったからと言って、必ずしも「悪党」とは言えないと思いますが。

チャーチルが一部の識者から厳しく批判されているのは、彼には人種差別的な帝国主義者だったという側面があるからです。先般のBLM運動でもやり玉に挙げられて、ロンドンにあるチャーチル像には「チャーチルは人種差別主義者」という落書きがされました。

実際、チャーチルは、インドの独立運動の指導者マハトマ・ガンディーについて、「東洋でよく知られる行者のふりをしながら治安妨害の暴力行為を行うミドルテンプル法曹院出の弁護士であるガンディー氏が、総督官邸の階段を半裸の姿で大股に歩くのを目にすることは、憂慮に値するとともにぞっとするほどの不快感を与える」と語り、またアフリカの植民地諸国の独立についても、「ホッテントットによる普通選挙などというものには少々懐疑的である(ホッテントットはアフリカ原住民に対する蔑称)」と述べています。

——今なら政治生命を失いかねない問題発言ですね。

その通りですが、他方で、現在の価値観から過去の事績を一方的に断罪することには慎重になる必要があります。大英帝国の建設や拡張の背後には、数々の蛮行や差別、搾取や虐殺も見られたことは事実ですが、しかし、あくまでも彼らのキリスト教的思想に基づくという限界は見られたものの、全人類的な平和の構築という考え方を生み出す素地そじが見られたのもまた確かなのです。