「期待の上振れ」は意識するだけで改善していく

「期待しない」は、「認知の変容」と表裏をなす関係です。先ほど提案した認知の変容では、悪い出来事が起こった原因を「相手の中」に探しました。対して今回は、傷つく原因を「自分の中」に見ます。

出来事は自分の都合などお構いなしに、自分の外側で起こるので、私たちがコントロールするのは困難です。他人の思考や行動となると、さらに完全にコントロール外です。

こうしたコントロールできないことに関しては、「この人の虫の居所が悪かったんだからしょうがない」と、相手の領域に投げたほうが、合理的かつラクです。

一方、「傷つく」のは自分の内側の現象であり、自分で変えられる領域です。期待をやめれば、それだけ傷つく危険は減らせます。

では、期待するのをやめるにはどうすればいいのでしょうか。逆説的な言い方ですが、「やめよう」と頑張る必要はありません。やめようとすると、たいていは「やめられない自分」が目につきます。すると、「私はダメだ」という考えにはまり込んでしまいます。

ですから、頑張るのではなく「気づく」だけで十分です。人のふるまいに「ガッカリ」「ひどい!」と感じたら、そのつど「あ、また期待していた」と思うだけ。変えようと思わずに、淡々と認識しましょう。

ズレを意識していれば、自然とズレを修正する力が働きます。

患者にも自分のスキルにも過度の期待は寄せない

「人に期待しない」という言葉に、後ろ向きなイメージを抱く人は多いでしょう。しかし、実際の効果はその正反対です。期待しない習慣が根付いてくると、前向きなメンタルが備わります。

私は仕事をするとき、この習慣を役立てています。たとえば私が相対してきた自閉症の子供たちは「予想外そのもの」ですから、期待などしていたら身が持ちません。

また、癌など身体の病気も診ますが、経過に一喜一憂していたら、やはりメンタルが消耗します。だから、自分のスキルにも患者さんにも、過度な期待は寄せません。

木製のテーブル、医師の聴診器
写真=iStock.com/Nuthawut Somsuk
※写真はイメージです

つい先日も、指導どおりの食事を摂っていれば良くなるはずの患者さんのデータが、なぜか悪くなっていたことがありました。