バットを振る作業は全然面白くない

<strong>鹿屋体育大学教授 児玉光雄</strong>●1947年、兵庫県生まれ。100冊以上の著書がある。最新書は『イチロー式モチベーション革命』。
鹿屋体育大学教授 児玉光雄●1947年、兵庫県生まれ。100冊以上の著書がある。最新書は『イチロー式モチベーション革命』。

9年連続200本安打の偉業を達成して、また一つメジャーリーグの歴史にその名を刻んだイチロー。途切れることないハイパフォーマンスに、ほとんどの人はイチローの才能を賞賛する。もちろん才能がなければメジャーリーガーにはなれない。しかし数々の記録は決して才能だけで築き上げられたものではない。それを裏打ちしているのは営々と積み重ねてきた日々の努力である。

少年時代にイチローが通いつめたバッティングセンターでは、毎日午後6時頃に必ずイチロー少年がボールを打つ姿を見ることができたという。毎日同じ時間帯に同じ場所で同じことをやり続けるのは、物事を習慣化させる秘訣だ。習慣化された作業で体に強く刻み込んだ技能記憶は、終生消えない。

メジャーリーガーになった今もイチローはルーティンを積み重ねている。打席に立ってピッチャーと向かい合うまでの所作は有名だが、彼はゲームのある日は朝起きてから球場を出るまで、全く同じ時間に同じことをしている。 チームメートの誰よりも早く球場入りして試合の準備に取り掛かり、試合後は自分でグラブを磨きながら一人その日のゲームを振り返る。食事を含めて、あらゆるメニューが決まりきったもの。たとえば昼食は奥さん手作りのカレー。作り置きしたカレーが冷蔵庫にストックされているという。

イチローが完璧なまでに自分の日課をこなすのは、それが試合に向けた準備として最高のものだと信じているからだ。マイナーチェンジを繰り返しながら確立してきたルーティンは、心身をベストの状態にして最高のパフォーマンスを発揮するための準備なのだ。

普通の人は「本番で頑張ろう」と本番を大事に考えるあまり、その本番で力を発揮できないことがままある。しかしイチローは全く逆。「朝起きてからバッターボックスに入るまでの準備に万全を期せば、本番は黙っていても結果がついてくる」という発想だ。