インターネットで誹謗中傷に加担するのはどんな人たちなのか。100万回以上の殺害予告を受けた唐澤貴洋弁護士は、自らを苦しめた加害者たちに会った。そこで見えてきたのは「意外な姿」だったという――。

※本稿は、毎日新聞のWEB連載「匿名の刃 SNS暴力考」をまとめ、加筆した、毎日新聞取材班『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃を振るうのか』(毎日新聞出版)の一部を再編集したものです。

パーカーの仮面男
写真=iStock.com/kuppa_rock
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攻撃的な投稿とは結びつかない姿

「自分を苦しめたのはどんな人物で、何のためにやったのか」

誹謗中傷の被害を受け、その理由を知りたいと自ら加害者と接触した人たちもいる。

本書の第1章で登場する、100万回に及ぶ殺害予告などの被害を受けた唐澤貴洋弁護士は、複数の加害者を特定し、面会した。本人の了解を得たうえで警察から情報を得て、探し当てたという。見えてきたのは、攻撃的な投稿とは結びつかない、意外な姿だったという。

唐澤弁護士が会ったのは、殺害予告をしたり、事務所に嫌がらせをしたりした人たち数人だ。全員男性で、10~30代の学生やひきこもり。全く面識はなかった。

最初に会ったのは、20歳ぐらいの大学生で、両親も同行していた。父親は堅い会社に勤め、母親はどこにでもいそうな普通の感じの女性。大学生はうつむきがちで口数が少なく、理由を聞くと「面白かったのでやっていました。そんなに悪いことだと思っていませんでした」。過激な投稿を称賛する他のユーザーの反応や、度胸試しみたいな雰囲気が面白かったようだという。30代の無職の男性は、年老いた母親と事務所を訪れた。ずっとおどおどして「すみません」と言い続け、「理由を聞いてもまともに答えなかった」という。

「投稿をしていると嫌なことを忘れられる」

医学部志望の男性は浪人2年目で、父親が医師。面会は両親も一緒だったが、唐澤弁護士は、父親が自分の息子が問題行為に関わったことについて、どこか人ごとのような態度だったのが気になった。そこで「どういう家庭なんですか」と聞くと、その男性は「父親が怖くて、せきをする音にもおびえて生活している。浪人生で居場所もない。投稿をしているといやなことを忘れられる」と語ったという。

唐澤弁護士は事務所の鍵穴に接着剤を詰められる被害にも遭った。実行したのは10代少年で、その場で警察官に取り押さえられた。唐澤弁護士は被害届を出さなかったが、母親を電話で呼び出し、少年とともに会った。着古したコート姿で現れた母親は、涙を流して謝罪の言葉を述べ、語り始めた。少年は母子家庭で育ち、中学校で勉強についていけなくなり、通信制の高校に在籍していた。常にインターネットを見ていて、母親がやめさせようとパソコンを取り上げたものの、バス代として渡したお金でネットカフェに行き、掲示板に書き込みを続けていた。唐澤弁護士が少年のものとみられる書き込みを確認すると、他のユーザーからあおられて、どんどん過激な投稿をしていた様子が分かった。唐澤弁護士の実家近くの墓を特定して写真を投稿したのもこの少年だった。