精神的に不安定になる加害者たち

中傷に関わる多くは「普通の人」だからこそ、いったん自分のしたことの重さを知ると、罪の意識にとらわれ、深い苦しみに陥るケースも多いようだ。

甲本弁護士によると、相談に訪れる加害者の多くは、被害者側がプロバイダ業者などに発信者情報の開示を請求し、業者からそれに同意するかを問う意見照会書が送られて初めて自身の悪質な行為に気づくという。

毎日新聞取材班『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃を振るうのか』(毎日新聞出版)
毎日新聞取材班『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃を振るうのか』(毎日新聞出版)

相談者の大半が、精神的に不安定になり、何日も眠れない、食事が喉を通らない、仕事に行けない、などと訴える。

「匿名だからと安心して書き込んでいたのに、突然ネット上でしか知らない相手方とつながったことにショックを受けるようです。ひどい場合には自傷行為に走ったり、自殺してしまった人もいました」

甲本弁護士によると、自殺したのは30代のひきこもりの男性だった。命を絶った後、家族が男性あての意見照会書を見つけて、相談に訪れたという。

「自分はとんでもないことをしたのではないか、警察に逮捕されるんじゃないか、と思い詰めて八方塞がりになったようです」

罪悪感にさいなまれる加害者は多い。甲本弁護士のもとには、「死のうと思って、今踏切にいます」「今から自殺します」という電話が半年に1度ぐらいかかってくる。そのたびに「死ぬような問題ではない」と落ち着かせて、後日相談に来るよう説得するという。

多くの事例を扱ってきた甲本弁護士は「経験上、ネットトラブルの背景にはネットへの依存があると感じています」と語る。そのうえで、「交通事故と似ていますが、自ら動いてたくさん発信している以上、誰でも被害者にも加害者にもなる可能性があります」と指摘する。

ネットによる誹謗中傷は、被害者側は言うまでもないが、加害する側も深い傷を負う。

【関連記事】
夜の繁華街に行きたい従業員を、トヨタの「危機管理人」はどう説得したのか
小6女子たちの"悪夢のいじめパーティー"
私は緊急着陸を招いた「マスク拒否おじさん」にむしろエールを送りたい
SNSでフェミニズムを語る女性たちが、男にも女にも嫌われる決定的理由
あおり運転しか生きがいがない56歳男性の怒りのトリガー