テレビで話題になったドラマ「華麗なる一族」。その物語の中心は、1960年代後半における金融再編の荒波を生き抜こうとした阪神銀行(頭取・万俵大介)と、銀行生き残りの犠牲となった阪神特殊製鋼(専務・万俵鉄平は大介の息子)の壮大な経済闘争にあった。
しかし、華々しい舞台の裏側では、万俵家の当主、大介の事業戦略に沿った息子、娘たちの政略結婚による閨閥づくりが繰り広げられる。その結果、万俵大介は「大蔵省主計局次長」「元通産大臣」「大阪重工社長(産業界の重鎮)」などという貴重な情報源および権力をコントロールできる立場を手に入れる。その様は、市場や業界内での覇権を握ろうとして繰り広げられる企業同士のM&A(合併・買収)ともオーバーラップしてくる。
いったんは成功したかに見えた“親族版M&A”だが、最後には破綻する。本人同士が望まない閨閥では、幸せな家庭など築けないのだ。致命傷は、無理を積み重ねた政略結婚によって、大局的な戦略の判断力が大介から奪われたこと。「阪神特殊製鋼の独立」と「阪神特殊製鋼を踏み台とした阪神銀行存続」の二者択一で、大蔵省の意図である“大河の流れ”を読み誤り、阪神銀行は上位行に呑み込まれる。結局、万俵家の親族版M&Aの収支決算は赤字へと転落したのだ。
実は銀行や自動車メーカーといった企業の場合でも、M&A後の業績が振るわないことがある。「世界一の預金量」「世界一の生産台数」などと見かけだけの規模が大きくなっても、それに見合っただけの利益をあげられず、「M&Aの成果があった」とはいい難いケースが見受けられるのだ。では、どのような状態ならば、M&Aが成功したといえるのか。
そこで紹介したいツールが「ROA(Return On Assets)」だ。日本語に訳すと「総資産利益率」。要は「会社が持っているすべての資産を使って、1年間でどれくらいの利益を生み出せるか」という会社の“利益創出能力”を測るものである。会計の知識をほとんど必要とせず、M&Aを含め幅広く企業の戦略の実施効果を判定できる大変便利な道具なのだ。
たとえば図にあるように、A氏とB氏という大家さんがいたとする。A氏は建物2棟(20室)に2億円を投資し、その全部が賃借人で埋まり、年間2000万円の不動産所得(=利益)を得ていた。一方のB氏は建物4棟(40室)に4億円を投資したものの、半分の20室にしか借り手がつかず、結果として、こちらも年間2000万円しか得られていない。
つまり、A氏もB氏も手にする果実は同じだが、そのプロセスでかけた投資額は2倍もの開きがある。その結果、B氏のROAはA氏の半分しかなくなる。どちらが、資産運用として効率的かは自明だろう。低成長時代の現代においては、規模拡大という尺度よりも、少ない投資規模でより多くの成果を手にするという、質実剛健につながるROA的思考が重要になる。それはM&Aでも同じだ。
1日100個の卵を産んでいた鶏100羽の鶏舎と、同じく200個の卵を産んでいた鶏200羽の鶏舎を1つにしたら、育ちも品種も違う鶏同士だったためか喧嘩ばかりして、合計で250個の卵しか産まなくなった。双方100%だったROAは、一緒になることで83%へ低下したわけで、これなら初めから一緒にならないほうがましである。
いよいよ2007年5月1日から三角合併が解禁される。これを皮切りに、M&Aが新聞やテレビを賑わしていくだろう。でも、表面上の華々しさに惑わされることなく、皆さんはROA的思考を持って見てほしい。そのM&Aが有益なものであったのかが、すぐに判断できるはずだ。