わが家では4年前からチワワを飼っている。そう、あの消費者金融A社がCMのイメージキャラクターとして登場させ、大人気となった犬だ。人気に火がつくまで30万円だった値段が、一気に50万円にハネ上がったというから、テレビCMの効果に変に感心した。
しかし、愛くるしいチワワのイメージとは裏腹に、消費者金融の現場では20%を超える高利の融資や厳しい取り立てなど社会的な問題が山積していた。そして、昨年1月の最高裁の判決が契機となり、利息制限法の上限金利であった15~20%を超える高利の貸し付けを厳しく制限する方向に一気に傾いた。
特に最近話題になっているのが、利息制限法の金利(15~20%)と出資法の金利(29.2%)の間にある最大14.2%もの金利差、いわゆる「グレーゾーン金利」である。法令違反として、借り手から相次いで返還の請求が行われている。消費者金融大手四社の2007年3月期における過払い金額の返還額は、合計で240億円に達したともいう。
先ほどのA社の07年3月期の損益計算書を見ると、過去1年間に支払ったグレーゾーン金利の返還コストは約150億円。その結果、A社のバランスシートは、左側の「資産の部」で現金預金が150億円減少し、それに合わせるように右側の「純資産の部」で同額の利益剰余金が減少することで、ようやく左右のバランスが保たれている(図参照)。
しかし、それで一件落着かというと、そうではない。07年3月期までの巨額の貸付金がほかにも残っているはずで、これからも返還請求が殺到しそうなことは容易に想像がつく。つまり、会計の用語で表現するなら、「当期以前の経営活動に起因」して、「将来の費用・損失」が「高確率で見積もられる」という状態にある。
このような場合、財務会計の世界では実際に請求を受けていなくても、将来の損失を見越して、早期に「引当金」という名の「負債」を計上しなければならない。A社の07年3月期の決算書を見直すと、驚くことに1671億円もの将来の金利返還見込み額を、追加で未払いの負債として計上している。その名称は、「利息返還損失引当金」である。
ここで注意すべきは、「利息返還損失引当金は、消費者から返還訴訟などを受けていないにもかかわらず、会社独自の判断で自発的に公表した支払い見込み額である」という点。実際に請求を受け、それが法的にも確定した債務ならば、バランスシートの「負債(会社が将来返済すべき額)」として計上するのは、誰が考えても当たり前だろう。
しかし、財務会計理論では、実際に請求を受けた債務をバランスシートの負債として計上するのはもちろんのこと、次の4つの要件を満たす将来の支払い見込み額についても、会計上の要請から、「現在の営業活動により生じた費用(見込み含む)」を正しく当期の業績に反映させるために、「○○引当金」という名称で、見積もり計上しなければならない。
(1)将来の費用・損失であること。
(2)当期以前に原因があること。
(3)発生の可能性が高いこと。
(4)金額を合理的に見積もれること。
このように、「将来起こるかもしれない」という支出などについても、それが当期以前の経済活動の結果の後始末として、相当程度発生の可能性が高い場合には、早期に費用計上し、当期の業績をより適正に表示しなければならないのだ。
この結果、A社をはじめ大手消費者金融会社は、監査法人の厳しい指導の下、莫大な額の将来の金利返還見込み額を、「利息返還損失引当金」などの名称で計上したのだ。ただ、専門家の間では「引当金は利益の調整弁」といわれているのも事実。過大な引き当てを行い、将来利益として再計上する可能性も否定できないのだ。実に引当金は奥深い。