デジタル・ネイティブ世代が見いだしたチェキの新たな価値

ブームは去り、販売数も低迷が続いていた。しかしチェキには独自の高度な技術が使われていた。富士フイルムとしては残したい技術だった。

幸いなことに、チェキには安定した需要があった。世界の観光名所のストリート・フォトグラファーや結婚式などのイベント用途だ。撮影した写真をその場で販売する。そのために使われるフィルムには安定した需要があった。

やがて変化の兆しが訪れる。2007年に韓国のテレビドラマの一場面でチェキが使用されたのだ。その後、チェキの販売がアジアの各国で前年を上回りはじめる。ドラマでの使用による注目度の高まりだけなら、ブームは一時の現象に終わりがちである。このためドラマ放映後、富士フイルム本社のチェキの担当部門がすぐに動くことはなかった。しかし、想定を上回る需要の高まりが、東アジアを中心に持続した。

2010年代に入り、富士フイルムはマーケティングの新たな取り組みをはじめる。まずは各国の支社に呼びかけ、市場で何が起きているかを探ることにした。各国・地域の営業拠点に指示が飛び、取引先の小売企業への聞き取りなど、グローバルな市場調査のプロジェクトが動き出した。

そしてこの調査結果から、チェキに新しい価値が見いだされていることに富士フイルムは気づく。チェキの新しいユーザーの中心は、各国共通で10~20代のデジタル・ネイティブ世代(インターネットが利用可能な環境のなかで幼少から育った世代)の女性たちだった。

かつてのフィルム時代では、写真とは、記録し、思い出を残すためのツールだった。しかし、デジタル時代のチェキは、新しいスタイルのコミュニケーション・ツールとして活用されるようになりはじめていた。

デジタルカメラやスマートフォンを使えば、液晶画面で写真はすぐに確認できるし、データ共有も難なくできる。記録し、思い出を残すためのツールとしては、インスタントカメラは使命を終えていた。