心臓移植の対象疾患として知られているのが「心筋症」。重症疾患の心筋症は心筋の細胞が何らかの原因で変質し、ゴム風船を膨らましすぎた後のように伸びきってしまったり、あるいは逆に、心臓の壁がグンと厚くなる病気である。当然、心臓からは十分に血液を送り出せなくなってしまう。
心筋症はタイプによって以下のように分けられている。
◎拡張型心筋症(虚血性) 心筋に血液を送る冠動脈が動脈硬化を起こして詰まってしまう心筋梗塞の後、心筋が薄くなって伸びてしまう。
◎拡張型心筋症(非虚血性) ウイルス感染による心筋炎が原因になる場合もあるが、多くは原因不明である。
◎肥大型心筋症(閉塞性) 肥大型心筋症は高血圧や大動脈弁狭窄症が原因で起きる二次的なケースを除き、心筋そのものの異常で心臓の壁が肥大したケースをいう。左心室から血液が押し出される大動脈弁近くがより肥大し、血液を流れにくくするのが閉塞性である。
◎肥大型心筋症(非閉塞性) 心臓の壁が全体的に肥厚する。
◎拘束型心筋症 問題となる左心室の心筋の厚さは正常だが、全体に硬くなるとともに左心室の中が多少狭くなる。やはり、心臓の機能が十分に果たせなくなる。
大きくは拡張型心筋症と肥大型心筋症で、拡張型は遺伝的要因が少なく、肥大型は遺伝的要因が強いと言われている。
発症年齢は拡張型では40代が多いものの、若年者も少なくない。虚血性は心筋梗塞後ならばどんな年齢でも起こる。一方、肥大型は20代から50代まで幅広く発症している。
そして、心筋症の症状は種類を問わず共通するところが多い。全身に血液が十分にゆき渡らないので「動くと息切れする」。全身の血管に血液が停滞するので「脚や全身にむくみが出る」。肺うっ血が起こるので「仰向けに寝ると息ができない」。風邪でもないのに「咳が出る」。「すぐに疲れてしまう」……。
症状は心不全と共通するところが多いが、心筋症の場合、症状に気付いたときにはかなり進行していることが多い。
診察は心電図を基本とし、心エコー(超音波)、カテーテル検査を行う。心エコーでは左心室の拡張、動きの低下に加え、弁の異常も診断がつく。
心筋症と診断がつくと、まずは内科での薬物療法、生活指導、食事療法となる。もちろん、中心となるのは心筋症の5年生存率を50%から80%に引き上げた薬物療法である。
心筋が伸びきってしまう拡張型心筋症では、利尿薬のほか心臓の負担を少なくするACE阻害薬、心筋の酸素消費量を減らすβ遮断薬がよく使われる。心筋が肥厚する肥大型心筋症には不整脈に用いるジソピラミドやβ遮断薬など。心筋が硬くなる拘束型心筋症では拡張型とほぼ同じである。
内科的治療の範囲を超えると外科へ――。そこでの治療は「心臓移植」「補助循環(人工心臓を使う方法)」「左心室形成術」の3つの方法がある。
まだ元気を取り戻せる軽症の人や60歳を超えた人には左心室形成術が行われている。それには「バチスタ手術」「ドール手術」「SAVE(セーブ)手術」がある。状態に適した手術を行うことが重要で、左心室と右心室の間の壁が問題の場合はSAVE手術、先端部の場合はドール手術、左心室の側面の場合はバチスタ手術となる。
バチスタ手術は1990年代にブラジルのR・バチスタ医師が始めた、拡張した左心室の心筋の一部を切除して縫い合わせる手術。左心室を小さくすることで収縮力をアップさせようとするものだったが、治療成績が悪くて世界的に衰退してしまった。が、今は改良され、左心室の先端・心尖(しんせん)部を残して切除すべき心筋が切除され、成功率が90%を超えるようになってきた施設も出ている。