「三人目」はいったいどこが違うのか

「私は皆さんに三人目の人になっていただきたい。この違いは明らかです。やっている作業は同じでも、仕事の目的や意義をハッキリと意識し、『何のために』『誰のために』という使命感を持って働くことで、大きな違いが出るのです。

企業には社会的責任があります。それは事業を通じて社会をより良い方向に変えていくことです。そして、人が働くうえで最も大切なのは、使命感を持つことです。自分はこの時代に生まれてきて、何のために生きるのか。人生の意味、自分のゴールを考えることです。

この写真の女性は、早稲田大学の学生の南谷真鈴さんです。今年五月、一九歳で世界最高峰・エベレストの登頂に成功し、世界七大陸の最高峰をすべて登頂した日本人最年少の記録を作りました。

彼女はお父様の仕事の都合で香港で育ち、小学校の頃から山が好きで、お父様と一緒に海外の高い山に登っていました。高校生のとき、「絶対に最年少でエベレストに登ってやる」と決意しました。私たちはある人からその話を聞き、服などの提供を通じて、彼女の活動を応援してきました。

聴衆は物語を追体験し、共感する

彼女は毎日二〇キロの荷物を背負って六時間走ると聞きました。長く厳しいトレーニングを積み、一九歳で夢を実現したのです。まず自分の目標を決める。そして、行動する。そうやって彼女は夢を実現しました。

野中郁次郎、竹内弘高『ワイズカンパニー 知識創造から知識実践への新しいモデル』(東洋経済新報社)
野中郁次郎、竹内弘高『ワイズカンパニー 知識創造から知識実践への新しいモデル』(東洋経済新報社)

彼女のように、皆さんには大きな夢を持って、行動していただきたいと思います。すべての出発点になるのは『熱』です。あなたに『熱』があれば、周囲がそれをエンパワーしてくれるのです」

柳井が聴衆に紹介したこれらの二つの物語を通じて、四〇〇〇人の社員は社会のために大聖堂を建設するという目的を持つ三番目の石工と、決意と努力によって夢を実現した若い女性に共感することができた。他者の体験を内面的に追体験することで、われわれの共感の能力は高まる。「共感が世界を動かす時代に私たちは生きている」と柳井は言う。共感の実践を習慣にすれば、誰でも世界を変えられるというのが、柳井の持論である。

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