為替の損益分岐点を理解することが重要
リーマン・ショック以降、資金が大量に流出した投資信託マーケットだが、今春の世界的な株価の上昇もあって復調の兆しを見せている。そうしたムードを牽引している商品が、分配金の高い海外債券ファンド(毎月分配型)だ。
分配金とは、投資家から預かった資金を運用し、収益の一部を還元する仕組みのこと。分配型のファンドでは、基準価額(一口当たりの純資産)の上昇分と分配金が投資家の利益となる。
特に人気があるのは分配金利回りの高いエマージング諸国(ブラジル・トルコ・メキシコなど)に投資するファンドで、なかでも「野村米国ハイ・イールド債券投信(通貨選択型・ブラジルレアルコース)」は今年前半の大ヒット商品となった。ファンドの設定から1年未満であるため、まだ分配金利回りは計算できないが、想定利回りは実に25%程度。高利回りの米国の事業債(ハイ・イールド債)に米ドルで投資し、高金利の続くブラジルレアルで為替ヘッジを行う。この際に生じる金利差(為替ヘッジプレミアム)が上乗せされ、高い分配金を還元できる仕組みだ。
「預金から投資へ」の流れが戻る中で、こうした高金利通貨の外債ファンド投資は魅力的に映るが、当然、リスクへの備えが極めて重要だ。選ぶ際のポイントは、主に3つある。
まず初めに、為替の損益分岐点をしっかり把握すること。為替の変動に一喜一憂するのではなく、「基準」を知れば安心できる。
損益分岐点を見極める計算式は、「現在の為替(円)÷(1+利回り・%)年数の累乗」。例えば、利回り5%のオーストラリアの債券への投資を考えているのであれば、1豪ドル=75円とした場合、5年後の損益分岐点は75円÷(1+0.05)5の累乗=58円。同じように計算すると、10年後は46円となる。投資家は、「果たしてどこまで円高になれば、利益がなくなるか」の判断材料にすればいい。
前出の米国ハイ・イールド債券投信(ブラジルレアル)の場合、ブラジルの政策金利が下げられると為替ヘッジプレミアムが減るだけでなく、通貨そのものが売られるためレアルの価値がさらに下がり、「2段階」で損失を受ける可能性がある。多くの投資家は高い分配金利回りや騰落率に目を奪われてしまうが、外債ファンドの場合、値動きの大部分は為替の変動だということを忘れてはならない。
また、そもそも外債ファンドに限らず、ファンドの基準価額は上下にブレが生じるのも忘れてはならない。
ファンドでは、変動率を表す「標準偏差」を用いて、基準価額のばらつき(リスク)度合いを測る。参考例として先進国の外債ファンドの場合、現在のところ標準偏差は10%程度(基準価額が1万円なら年間最大で1万1000円、最低で9000円程度に収まる確率が高い)。一方、「新興国債券ファンド」の標準偏差は約20%である。投資家は、こうした基準価額の振れ幅を認識する必要があるだろう。
3つ目は、分配金への正しい理解である。分配金は、ファンドの純資産の中から支払われる。当然、分配金を支払えば、基準価額は下がることになる。なかには、無理をして分配金を出すファンドも実在するが、これには要注意。とりわけ外債ファンドで、組み入れている債券の利回りとファンドの分配金利回りが乖離しているものには、手を出すべきではないだろう。
※すべて雑誌掲載当時