大企業では、3年以内に社員の3割程度が辞めるというデータがあるという。その定着率の低さがクローズアップされがちだが、私の見方は少し違う。打ち寄せる波に異物が含まれているように、戦力になると思って採用しても、会社にとって不要と考えられる社員もいるものだ。生産性を上げるためには企業にも新陳代謝が必要であり、誰も辞めないほうが怖いともいえる。むしろ問題なのは、辞めていく3割がどんな人材なのか、必要性の高い人材が流出していないか、である。
以前もお話ししたが、私は大学時代に教材セールスの仕事をしていた。新規採用のための説明会に10人集まれば、実際に仕事に就くのは3~4割程度。何回も説明会をして50人が仲間入りすれば、成約して稼げるのは20人程度、トップレベルと評価できる人材は1人いるかいないかだ。
ここで連想されるものが「パレートの法則」だ。別名「二対八の法則」といわれるこの法則は、イタリアの経済学者パレートが発見した所得分布の経験則で、全体の2割程度の高額所得者が社会全体の所得の約8割を占めるということを指す。また、全体の20%の人材が大半の収益を挙げ、残り80%の人材を食べさせるなど、さまざまな現象にも適用できると考えられている。
では、パレートの法則を会社の人材に当てはめて、「8割の人材は企業に必要ない」といえるのだろうか。答えは「ノー」である。国民的アイドルのSMAPは、全員がキムタクでは成り立たない。トークに長ける者、演技がうまい者など、それぞれの個性があってこそ成立する。キムタクには、より大きなスポットライトが当たるが、露骨に嫌な顔をするメンバーはいない。妬みや足の引っ張り合いが生じるようではグループとしては機能しない。自身の立ち位置をわきまえながら、自身の能力を発揮していることが、グループの価値を高めているのだ。
企業にも同じことがいえる。2割の社員が収益の大半を生み出すとしても、残り8割にも重要な役割がある。2割の社員を守り立てる、サポートするといった役割である。野球において、ベンチで声を出すムードメーカーが重宝されるのと同様、どんなときにも明るく振る舞い、全体のモチベーションアップに貢献する。
能力に限界を感じた際、傷ついた自分を放っておいてほしい半面、一人ぼっちで落ちていくことは嫌で、他者に共感を求めたがる人間がいる。上司や会社のシステムを批判する行動に走るなどの後ろ向きの感情は、周囲に伝播しかねない。会社にとって百害あって一利なしで、そのような社員には退場願いたい。
企業に必要なのは、2割の稼ぎ頭だけでなく、周囲に悪影響を及ぼさず、自分の立ち位置を見極め、職務を全うできる8割の人材だ。仲間の士気を向上させるムードメーカーであることは、会社にとってかなり貴重なことなのだ。
難しいのはその評価で、上位2割の社員は目に見える成果で評価することができても、残り8割のムードメーカーを数字で評価するのは困難といえる。これは管理職の重要な仕事のひとつだろう。
また、上位2割の人材がいつ、8割のほうの人間になるかはわからない。誰にも、能力に限界を感じるときがきてもおかしくはなく、そのときにうまく切り替えができるかどうかも重要である。
いうまでもなく、8割といえば会社の大勢であり、この人たちが会社の方向性を決めているといってもよい。フォワードだけが優れていても勝負にならず、守りを固めるディフェンダーが必要なように、上位2割を占める人材も、8割の人材も、欠かせない人材なのだ。