PCR検査は他人への感染力を反映しない

一方でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査は、不完全な検査であることを認識しておくべきだと思います。

私たち医療者や基礎研究をしている人々には、PCRはなじみ深い作業の一つです。私も難病の遺伝子をPCRで増やしたり細胞内に遺伝子を打ち込み発現させる実験を手伝っていました。PCRは、わずかな目的とする遺伝子を専用の「鋳型」を使って大量に複製する技術です。

鋳型に合う遺伝子があれば、複製を大量に得ることができます。こちら(※4)にわかりやすい解説が掲載されています。少量の遺伝子をたくさん複製するには画期的な技術です。

鋳型に合う遺伝子が検体に存在するか否かが、複製の有無につながります。元が1つでも1万でも速度が違うだけで複製可否のどちらかの結果になります。

そのため場合によっては、その人が完治してウイルスの完全体はいなくても鋳型に合うカケラがあればPCR陽性になります。また、数個のウイルスを吸い込んだ直後で体内に入らず一時的に付着していただけでもPCR陽性となります。

PCR検査は「ウイルスの遺伝子の有無だけ」のチェックなので他者への感染力とは、全く関係ありません。PCR陽性の人の周りの濃厚接触者が陰性の人ばかりというのは、そういうことを意味します。

また、遺伝子増幅のための時間が必ず必要になります。増幅回数の条件によって、結果が異なってくることも問題です。PCRの作業の詳細がどのようなものか、基準が一緒なのか、明らかにされていません。

もともとPCRは遺伝子増幅が目的の技術であり、たくさんの方を感染防御するという面からは非常に使い勝手の悪い検査の一つです。人間は、蟷螂とうろうの斧(※5)しかもっていないことに謙虚になるべきです。PCR検査をたくさん行えば、安全性が増すと信じている人が多くいますが幻です。

「検査」それ自体が人間を不安にする

日本では冬に流行するインフルエンザの多くが2009年に新型として流行したA(H1N1)pdm09型インフルエンザによるものです。流行当初、感染者が隔離され学校は休校となり、個人の通勤通学経路も報道されたりしました。

ところで、日本で冬季に流行するインフルエンザは何処からやってくるのでしょう? 私たちは、流行していない夏や秋はインフルエンザを忘れています。

答えは、外から持ち込まれたり日本国内に保有され続けている無発症者が、「常にクラスターを繰り返しているから」です。毎冬1000万人がかかりますが、春夏秋冬通年で国内にウイルスは存在し続けています。メディアが騒がず、私たちが興味を持たされていないだけです。

夏の今、全国でコロナでなくA(H1N1)pdm09型インフルエンザの大規模PCRを行えば陽性の人が見つかるでしょう。他の無症状の多数のウイルスたちにいたっては、興味も持たれず調査すらなされません。意味もあまりないからです。

「新型インフルエンザと従来型の季節性インフルエンザを、PCR検査を積極的に行って分けて対応すべき」と専門者が声高に主張されていました。当時、季節性インフルと新型インフルは混ざって流行っていました。季節性の方が重症の事もよくあり、症状からの鑑別は不可能でした。私は、大混乱がおきて保健所職員さんなどの現場の担当者が疲弊するだけなので、希望者の大量検査はやめた方が良いことをつづりました(※6)

人間は、検査をして陰性でも安心するどころか、より不安になるものです。「検査しなくてはいけない感染症が流行っている」と認識することが、不安を生むという悪循環になります。