アフターコロナはこんな世の中になる

コロナ禍の今、気軽に旅をするのは難しいものの、旅も人生を豊かにするためには欠かせません。旅の定義は人それぞれですが、僕自身は「コンフォートゾーンから、アンコンフォートゾーンへ飛び出すこと」だと考えています。

出口治明氏
出口治明氏

私たちは家や職場、学校など、安心して暮らせる場所、つまりコンフォートゾーンをベースに生活しています。ここから外に出て、アンコンフォートゾーンという非日常に身を置くと、変わった気づきを得られることがあります。

以前、僕はイスラエルの都市、エルサレムに行ったことがあります。街を歩いているだけで、機関銃を持った女性から「鞄の中身を見せなさい」と止められます。今まで持っていた常識が覆される旅でしたね。日本にいる限り、まずこんな経験はしないでしょう。皆さんもコロナが落ち着いたら、人生に刺激を与える場所へどんどん出かけてみてください。

メディアで度々目にするようになった「ウィズコロナ」と「アフターコロナ」。同じようなものだと考えている人もいるかもしれませんが、僕は「ワクチンや薬ができるまで」をウィズコロナ、「ワクチンや薬ができた後」をアフターコロナと捉えています。

たとえ感染が下火になっても、ワクチンや薬がない間は「ニューノーマル」な生活様式がマストです。人前ではマスクを着用して、手洗いをこまめに行い、ソーシャル・ディスタンシングに気をつけないといけません。一方で、ワクチンや薬ができた後は、コロナはインフルエンザのような存在になる。今はNGとされているハグのような習慣もきっと復活するでしょう。ただ、人々の意識はすぐには戻らないでしょうね。マスクをつけたまま過ごす人も少なくないでしょうし、ハグを嫌がる人もいるかもしれません。

ワクチンや薬が開発されたら、過敏にならなくていいと頭ではわかるのですが、人々の意識はすぐには切り替わりません。動き出したクルマはブレーキなどの摩擦力を加えない限り動き続ける、あの「慣性の法則」と同じように、人の気持ちもサッと切り替わるものではない。人間とはそういうものです。

僕がよく例に出すのが「テレビのリモコン効果」です。古き良き昭和の時代、テレビのリモコンが世に出たときのことは、今でも忘れられません。メディアでは「こんなもの売れるわけがない」「過剰なサービスだ」と散々な言い様でした。リモコンがなくても、部屋の中を1~2メートル歩けばチャンネルを回せるのだから、リモコンを必要とするような横着な人はいない、という見解もあったほど。でも、結果的にリモコン付きのテレビは売れ、今ではなくてはならないものになりました。リモコンが証明したのは、元来人間はとても怠け者で、便利なものには勝てないということです。