2020年5月、緊急事態宣言解除の直後の参院本会議で、「スーパーシティ法案」が可決された。生物学者で早稲田大学名誉教授の池田清彦氏は「狙いは経済合理性だけで都市づくりをすること。これから富裕層の思惑のみでいろいろなことが決まるようになり、経済格差はさらに拡大していくだろう。なぜ日本人はそれに怒らないのか」という——。

※本稿は、池田清彦『自粛バカ』(宝島社)の一部を再編集したものです。

コロナでわかった「グローバリズム」の弱点

今回のコロナ騒ぎでわかったのは、経済合理性だけではコロナのような危機に対応できないってことだ。

実は、安倍政権はけっこう前から全国の公的医療機関の統廃合や病床数削減を進めている。2015年に厚生労働省が「2025年までに最大で15%減らす」という目標を掲げ、重症患者を集中治療する高度急性期の病床を13万床、通常の救急医療を担う急性期の病床を40万床、それぞれ3割ほど減らす方向で動いてきた。

この方針に沿って、地方自治体でも大阪なんかもすごく病院を減らしていた。診療実績が少なくて非効率な運営をしている病院は無駄だから潰してしまえというわけだよ。

手術の準備をしている女性医師。彼女は感染防具を着用している。
写真=iStock.com/HRAUN
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パンデミックでは病院や病床数が少ないと医療崩壊が起こる。さらに、コロナの指定医療機関になると一般の患者を受け入れられなくなってしまうから、本来なら救急で処置して入院すればなんとかなった人を助けられなくなる。

ヨーロッパで英国に次いで死者が多いイタリアも病床数削減を進めていたことで医療崩壊を起こした。治療を受けられずに自宅で亡くなった人がかなりの数に上ったといわれる。やっぱり新自由主義的な経済合理性だけで医療を運用するのはダメってことだ。医療、そして教育はある程度余裕がある状態で回るようにシステムを最適化する必要がある。

アフターコロナ、グローバルキャピタリズムは推進か廃れるか

だから世界は今、このままグローバルキャピタリズム(資本主義)を推し進めていくのか、それともグローバルキャピタリズムが廃れていく方向に進むのか、この2つで揺れていると思う。

たとえば、アメリカは医療費がケタ違いに高額で、医療保険に加入していない人が数千万人もいる。そうした保険証をもたない人がコロナに感染して治療を受けた場合、約470万円から約820万円の自己負担が発生すると試算されている。ちょっと病気になったらたちまち多額の借金を抱える羽目になり、そのまま下層から抜け出せなくなる。

その意味で国民皆保険制度のある日本人は恵まれているけれど、このままグローバルキャピタリズムが進んでいったら日本もアメリカのようになってしまう可能性がある。だから、今後はそれを阻みたい勢力とグローバルキャピタリズムを延命させたい勢力のせめぎ合いになるはずだ。