整備士として人生の大半を過ごしてきた小林にとって、航空事故報告書は「教科書」であり、この新聞記事は「バイブル」だという。

小林は「後進の育成が自分の最後の仕事」と話す。墜落事故の教訓を伝える一番の近道は、毎日欠かさず1日4回機体を磨き上げることだと考えている。天草エアラインの整備士は7名。彼らに飛行機の声に耳を傾けることの意味を伝えなければいけない。

「天草エアラインで残された時間はそう長くはありません。事故の教訓を伝えながら、引退するその時まで自分の背中を後輩に見せていきたいです」

整備士の振る手は安心のしるし

天草空港では、職員が「いってらっしゃい」「楽しい空の旅を」「ご搭乗ありがとうございます」と書いた手作りの看板を掲げ、乗客を見送る。滑走路に向かって飛行機が動き出すと、大きく手を振って乗客を送り出す。それも小林の仕事だ。

「ご搭乗ありがとうございます」と書かれた手作り看板を掲げ、乗客を見送る
筆者撮影
「ご搭乗ありがとうございます」と書かれた手作りの看板を掲げ、乗客を見送る小林氏(左)

筆者は小林への取材を終え、天草エアライン機に乗り込んだ。当初、小林たちの見送りは乗客を喜ばせようとする単なるサービスだと思っていた。しかし、それだけではないようだ。「この飛行機は俺が自信をもって見た。安心を約束する。飛行機の旅を心から楽しんで」。そんな小林の声が聞こえたような気がした。

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