韓国政府の具体的な対応はいまだなし

報道を受けて菅官房長官は「国際儀礼上、許されない」「報道が事実であるとすれば日韓関係に決定的な影響を与える」と批判。もちろん、設置は私有地であるため日本大使館前や領事館前の慰安婦像のように、ウィーン条約〔第22条・接受国は(中略)公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する〕を理由に日本政府が撤去を迫ることはできない。

一方で、私有地とはいえ、自宅の一角にひっそりと建てたものとは違い、「広く、多くの人に見せるため」に作られたものであることも事実。さすがに韓国政府が「他国の指導者を礼遇する外交慣例を考慮すべき」との立場を示したが、具体的な対応はまだ行われていないようだ。「良識」ある対応を望みたい。

像を制作した彫刻家は「西ドイツの(ブラント)首相がユダヤ人を賛える慰霊塔の前でひざまずき謝罪する姿から作品のインスピレーションを得た」とし、「安倍総理を模したものではない」と述べている。さらには「日本の真の謝罪があったとすれば作品の見方と解釈も変わっただろう。ひざまずいている対象が安倍首相かどうかを離れて重要なことは日本の真の謝罪」とも述べている。

安倍総理は公式に謝罪しているという事実

だが、この発言には疑問がある。この彫刻家だけの誤解ではなく、日韓双方の世論であまり理解されていないように思うのだが、安倍総理は慰安婦問題に関して「公式に謝罪している」のである。

安倍総理は一般に右派、タカ派と言われるが、当初、日本の保守派が期待した「河野談話」の撤回を行わず、むしろ「見直しは考えていない」旨を閣議決定している。さらには2015年に韓国・朴槿恵政権の間で「日韓合意」を行っている。日韓合意では「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」したことや「今後、国連など国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」としたこと、そのために日本政府が10億円を拠出したことが注目されてきたが、口頭で示された「合意内容」において、「安倍総理が慰安婦にお詫びした」旨が、岸田外務大臣(当時)から伝えられており、外務省のHPにも掲載されている

「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」

強制性にこそ触れていないものの、「軍の関与」を認めたうえで「おわびと反省の気持ちを表明」しているのだ。保守派の間では悪名高い河野談話はあくまでも官房長官という立場のものだが、こちらは内閣総理大臣である。