貴重な経営資源を優秀な経営者に集中

中小企業が中小企業たる所以は、その規模の小ささにある。なかでもアトキンソン氏は1社当たりの従業員数に注目し、日本の小規模事業者約305万社では1社当たり3.4人の従業員しかいないことを指摘する。生産性も中堅企業の457万円に対して342万円しかない。

新型コロナウイルス感染防止でテレワークによる在宅勤務が増え、これを機に一部の大企業ではそれを常態化して働き方改革、生産性のアップにつなげようとする動きが出ている。しかし、4人にも満たない規模の会社であれば、そもそもテレワークに必要な設備投資すら難しいという問題が存在する。また、規模が小さいがゆえに得られるメリットも小さくなるのなら、中小企業の経営者にあえて導入しようとする意欲も湧かないだろう。

「最新技術はトリクルダウンすると妄信されていますが、ICT(情報通信技術)がいまだに普及していないのは、規模という構造的な弊害があるからにほかなりません。日本は米国企業の6割、欧州の4分の3の規模しかなく、だから生産性が低いままなのです」(アトキンソン氏)

このままだと、日本の生産性のアップは期待できそうにない。そして付加価値が増えなければ、所得は伸び悩み、デフレの状況がいつまでも続くことになる。そこでアトキンソン氏は次のような大胆な提言を行う。

「日本政府が取るべき政策は、中小企業、特に小規模企業を中心に再編や退場を進めて、経営資源を優秀な経営者に集中させ、中堅企業を増やすこと。それでこそ日本の生産性は高まり、人口減・高齢化という強いデフレ圧力のもとでも、脱デフレの道筋が見えてきます。もう企業数の増加・維持を目標にすることはやめたほうがいい。中小企業が規模を拡大したくなるように成長を促して、それができないところは補助しない。場合によっては退場してもらう。そうした政策に切り替えないかぎり、日本の未来はないでしょう」

中小企業の経営者を中心に、自ら血を流す覚悟で経営の改革に取り組んでいく必要に迫られているわけだ。まさに正念場といえる。

※デービッド・アトキンソン氏のプレジデント誌連載「このピンチが最後のチャンスだ」を再録しながら編集部で編集・構成しました。