社内の意思決定プロセスはどうなっているのか

万人受けするように見える予備校の広告も、そもそも家庭の都合で大学には行けない、家庭の都合で塾や予備校なんて行けないという高校生にとってはつらいものでしょう。それと同じように60点以下じゃ「需要がない」だの「かわいくない」だのといわれたら、「あんたは何様?」といいたくなる。これがこの炎上の構図です。

しかし、だとすれば、この程度の地雷に気がつかない制作側がおかしいといわざるをえません。男性目線の「需要」って? これを訴求層である働く女性層に打ち出すのは、働く親(女性とは限りません)に平日の朝、キャラ弁を作れ、というのと同じくらい無理筋です。レースクイーンをご当地キャラにしてしまうのと同じくらい的外れです。肯定的に受け取る人がいるのは確かですが、一方でどれだけの人に圧迫感や不快感を与えるメッセージになるのか、わからないのでしょうか。

想像力に欠けるという以前に、意思決定プロセスに何かゆがみがあるのではないかと思わずにはいられません。災害用の備蓄品に生理用品を入れ忘れていた私の勤務先と同様に、です。

外見を磨きたい欲望は悪いことではないけれど

20代後半で仕事に精を出している女性に向かって、「需要」だの「職場の華」だのと考える男性からの目線や外見に対する規範を強調するCMができあがるとき、その現場にはつねに半数くらいは女性がいたのでしょうか? 外見を磨こうという意欲や欲望は悪いことではないですし、それが異性の視線を介したものであることも、それ自体が問題なのではありません。

瀬地山角『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社新書)
瀬地山角『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社新書)

男女を問わず、結婚や出会いを意識する人が少なくないこの年齢期に、異性を意識し外見に気を遣おうとする人がたくさんいるのは、ある意味で当たり前のことです。そしてそれがその人の主体的な判断である限り、当然ですが、そのこと自体を否定するべきではありません。それも「性別からの自由」の重要な一部分です。

一方で仕事に集中したいという男性がいるのと同じように、仕事に集中したいという女性も当然います。だとすればここで問題があると取り上げたCMの制作過程で、なぜそうした女性たちの感覚は反映されなかったのでしょうか。それがふつうに意識されていれば、少なくとも公表と同時に炎上して、撤回・謝罪するなんて無駄なことにはならないはずなのですが。

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