ターゲットは「大都市部の高学歴女性」が中心
ルミネに西武・そごうを対比させると、前者に比べ後者のメッセージは、シリアスな笑顔の少ないもの。自社の製品は前景化されず、働く女性の直面する差別を描き、それに立ち向かおうとする力強い情報発信です。ルミネにあった「巻いただけですって~。やっぱかわいいなぁ。あの子」などという男性からの目線はなく、30代の働き方に目がいっています。
個人的な好みをいうと、こうした西武・そごうのようなCMはメッセージに対して私は「よくぞ、しっかりいってくれた」と思いますし、好感を覚えます。理不尽な差別に負けまいとする知的な女性たちへの応援であり、そもそも私の研究者としての原点に関わる視座です。こうした性差別に対する怒りが、私をこの途に駆り立てた出発点なので、ここは譲れません。
ただそこから少し距離をおいてCMとして考えると、おそらく訴求層は大都市部の高学歴女性が中心になり、ボリュームとしては必ずしも多くないのではないかとも考えられます。西武・そごうはまさにその層に訴えようとしたのでしょうから、それはマーケティング戦略として十分理解できます。
ただ一方でファッションや化粧品の市場が細分化されていることを前提にすると、こうしたストレートな対抗的メッセージを肯定的に受け止める層と、「巻いただけですって~」を受容する層は、まさにルミネのCMの中のように、すれ違ってしまっているのではないかと思われます。
「寝て、それ?」「職場の華」などセクハラだらけ
これらの事例は、性別についての「平等」と「自由」を理解する上で、とてもわかりやすい事例なので、少し解説を加えておきます。特に「性別からの自由」に関わる論点です。
ルミネの動画の主人公の女性は、よくいるふつうの女性です。服装はカジュアルで髪型やメイクもナチュラル。職場では単に一人の働き手として評価されたいと思っているのでしょう。それなのに、ファッションや髪型などを後輩と比較され、頼んでもいないのに一方的に、「需要が違う」などといわれてしまう。しかも、そのことで本人が葛藤を抱えることになる。
そもそも化粧っ気のない顔を見て「寝て、それ?」なんてどう考えても「暴言」で、まともな男性ならふつう口にはしないはずです。逆に口にしてしまう人がいるとしたら、態度を改めることを強くおすすめします。おまけに「職場の華」なんていうずいぶん「古風な」、働く女性を外見だけで判断するような言葉まで使われていて、このルミネのCMはもはやセクハラのオンパレード。多くの働く女性を敵に回してしまったのは当然です。