リアル体験が解禁されてもオンライン体験は共存していく

徐々にブームになってきたオンライン体験、その本質的な魅力はどこにあるのだろう。地域ブランディング研究所の吉田博詞代表は、観光地の体験型観光プログラム造成支援を手掛けてきた経験から、こう分析する。

「那智勝浦のまぐろ体験では事前にキハダマグロが送られ、さばき方やおいしい食べかたを教えてもらいました。静岡のお茶体験、和歌山や京都のオンライン宿泊体験にも参加しましたが、いずれもライブで現地の様子を教えてくれたり、参加型のコミュニケーションがあったりと、リアルのビジネスで培ったコンテンツとホストの魅力がしっかりしていればオンラインの満足度も高く、次は実際に旅行に行きたいという気分も醸成されます」

自粛解除後もこのリアルとオンラインを組み合わせた需要はあるとみて、運営する体験予約サイト「Attractive JAPAN」のプログラムにも、オンライン化をサポートしていくと言う。

オンライン体験は、新型コロナウイルスの影響で、従来のリアルツアーや体験プログラムを提供できなくなった事業者が、その代替ビジネスとして開始した。参加者の側にも、自粛疲れの解消に家から気軽に体験できるレジャーという位置づけで、時代のニーズにマッチした。印象的だったのは、取材したサービス提供者すべてが、リアルのサービスを再開できるようになっても、オンラインでの提供は続けると言っていたことだ。

「これまではいかにリアルな体験を再現するかということに力を注いできましたが、これからは、水族館の飼育員と水槽の中を泳ぐ、電車の運転席に入れる、といったリアルでは不可能な体験を提供していきたいです」(ガイアックス TABICA事業部 地方創生室 細川哲星室長)

テレビ番組「タモリ倶楽部」では、鉄道マニアの出演者が、通常ダイヤとは異なる貸切運転や整備工場の内部に入れる企画が人気だ。これまでは芸能人の特権だった「特別な許可を得て撮影しています」的なシチュエーションが、オンラインなら一般人でも疑似体験できるようになるだろう。

オンラインは一時的な代替手段ではない

琴平バスの山本紗希執行役員は、「オンラインは誰がやっても同じで差別化はできないと思っていたけど、そうではないと分かりました」と語る。彼女は起案当初には社内でもっぱら否定的な反応だったオンラインバスツアーを、外部観光関係者とのコーディネートで実現し、参加者のファシリテーターとしても目覚めた。鉄道マニアや城マニアのようなコアな趣味を持つ参加者同士のコミュニケーションも、きっとうまく仕切るだろう。

6月25日、サザンオールスターズが横浜アリーナから配信したオンライン公演は、18万人がチケットを購入し50万人が視聴した。外国人旅行者がゼロになった各ゲストハウスは、オンライン宿泊でオーナーが旅をできないゲストとの触れ合いを提供している。新型コロナウイルスで全面的に活動停止に追い込まれた各業界では、世界的なプラットフォームである「Airbnb」から個人経営ビジネスまで、オンラインを一時的な代替手段ではなく、リアルとのハイブリッドなサービスとして磨いていく、復活のシナリオを描き始めている。

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