「石破総理」誕生が無理な理由

だが、である。過去3回、自民党総裁選に出馬した石破氏は理解しているだろうが、残念ながら国民から人気のある人物が「総理・総裁」にたどり着くことができるかといえば、答えは「NO」だ。

その理由の1つ目は、事実上の総理を決める自民党総裁選の仕組みにある。自民党籍を持つ国会議員が投票する「議員票」と、全国の党員・党友による投票を集計した上で得票に応じて比例配分する「地方票」の合計で順位を決める仕組みは、総裁公選規程の改正で地方票の重みが増したとはいえ、国会議員からの支持が多く得られなければ勝利をつかむことはできない。

石破氏が率いる「石破派」は19人にすぎず、いまだ出馬に必要な「国会議員20人」という要件すらクリアできていない。推薦人を確保し、世論に近いとされる地方票をかなり積み上げたとしても、400人近い国会議員から一定数以上の票を集めなければ過半数を超えることは難しいのだ。

安倍氏との一騎打ちになった2018年総裁選で、石破氏の議員票獲得は安倍氏の22%程度の73票にとどまる(地方票でも敗北)。5人が立候補した2012年総裁選では、第1回投票で地方票165票(1位)、議員票34票(4位)を獲得してトップに立ったが、過半数を超えることはできず、上位2人による決選投票で安倍氏に逆転負けしている。

「地方票」をかせげなければ敗北必至

この2つの総裁選の結果から読み取れるのは、立候補者が少なければ「地方」で人気の石破氏が地滑り的勝利をおさめるチャンスがある一方で、候補者が乱立すれば第1回投票で過半数を超えられず、決選投票での逆転負けという「悪夢」が再来する可能性があるということだ。決選投票は議員票が変わらない一方で、地方票の割合は低くなる仕組みになっており、やはり議員票が大きなポイントとなる。

過去の総裁選を見てもわかるように、最大派閥からの支援がある候補は議員票が計算できるために有利といえ、現在で言えば約100人が在籍する安倍総理の出身派閥「細田派」がその条件に当てはまる。だが、安倍氏の意中の人物は次期総裁選への出馬に意欲を示す岸田文雄政調会長とされ、ここに安倍総理の盟友である麻生太郎財務相率いる「麻生派」が加われば、それだけで議員票は約150票にも達する。

仮に決選投票になれば決定的といえる票数だ。「令和おじさん」で人気となった菅義偉官房長官、茂木敏充外相、野田聖子元総務相といった知名度のある面々が出馬に踏み切れば、議員票も地方票も分散され、決選投票にもつれ込む可能性は高い。