実質金利の上昇が財務を圧迫する
デフレとはモノやサービスの値段が下がり続けることである。デフレ下では企業経営に悪影響が出ると考えるのが一般的だ。
悪影響のひとつは、モノの値段が下がったり消費が低迷することによる、売り上げの減少である。そしてもうひとつおさえておきたいのが、金利負担増による財務状況の悪化だ。
デフレは景気の低迷を意味するため、金利は下がるのが原則。しかしデフレに突入してから金利が引き下げられるまでにはタイムラグがある。その間、名目金利から物価上昇率を引いた
「実質金利」は、物価上昇率が下がる分、上昇することになる。
金利は、お金のレンタル料ともいえる。デフレにもかかわらずレンタル料が下がらないと、「売り上げは減少するのに、金利負担は減らない」、むしろ「実質金利の上昇で金利負担だけが増える」事態に陥ってしまう。
企業のバランスシート(B/S)を紐解いてみよう。
バランスシートの右側には、負債および資本が記載される。短期借入金と長期債務の合計が有利子負債で、これを株主資本で割ると、「D/Eレシオ」という指標が導き出せる。値が小さいほど財務状況がよく、1を下回れば資本が多く、上回ると負債が多いと見ることができる。
D/Eレシオは企業の長期支払い能力を判断する指標として社債の格付けにも重視される。
似た指標には、現預金を引いた正味の有利子負債を分子に算出する、「ネットD/Eレシオ」があり、こちらのほうが数値はよくなる。しかし現預金には担保があって自由に引き出せないケースがあるほか、引き出せてもほかの目的に使うのが普通。D/Eレシオのほうが、より実態に近い指標と考えていいだろう(D/Eレシオの計算については、「有利子負債÷少数株主持ち分を除く株主資本」を採用)。
たとえば日立製作所の9年前(2000年3月期)のD/Eレシオは0.93。これが、09年3月期には、1.62(第3四半期末)となっており、この限りにおいて数値が悪化した、といえる。
また09年3月期の有利子負債は2兆7795億円(同)だが、金利が1%上がれば金利負担は277億円以上増え、D/Eレシオは1.64となる。
00年3月期では、同じ1%の金利上昇(約278億円の負担増)でも株主資本が1兆円強と多いため、D/Eレシオは0.94と、より軽微な上昇にとどまる。D/Eレシオが低いということは、金利耐性が高い、ということでもあるのだ。
デフレであれば金利は上がらないが、前述のように金利が下がるまでにはタイムラグがある。その間、実質金利は上昇した状態にあるため、金利が下がるまでの間は金利の実質負担が増え、売り上げの減少によって資本は目減りする可能性がある。結果、D/Eレシオも悪化(財務状況も悪化)することになる。
かといって、デフレのときに借金を減らすべきかといえば、答えはノーである。デフレではお金の価値が高まるので、デフレのときに返済すれば、お金の価値が高い分、高い返済になる。デフレ期には返済を急がず、キャッシュを減らさないことが重要だ。
キャッシュリッチ企業がデフレに強いといわれるのは、そのためである。
逆にインフレの状況下ではお金の価値が低くなるので、借金をするのに適している。借金で収益性の高いものに投資するのがうまいやり方といえよう。