フェイスブックにあるのは「悪意」ではなく「作為」

【尾原】仰るとおりGAFAも天使ではありません。行き過ぎの面もあります。そこはしっかり考える必要がある。私達の問題意識は共通していますね(笑)。

【小林】そう。ただ、個人的にフェイスブックはよくわからない(笑)。悪意はないと思いますが、作為を感じます。例えば2018年、元CIA分析官のヤエル・D・アイゼンスタット氏がフェイスブックに雇われたのですが、わずか6カ月で辞めました。理由は、広告によるマニピュレーション(情報操作)があまりに著しくて嫌気がさしたそうです。政治と社会の公平性を目指す彼女がサジを投げたのは象徴的です。

【尾原】「作為」というのはいい表現ですね。主導しているのは、おそらくCOOのシェリル・サンドバーグじゃないかなと推測してます。もともとグーグルでアドセンスがきちんと動くように開発した方で彼女は株主期待を超える売り上げを支える義務があるので。

IT批評家、実業家の尾原和啓氏
撮影=小野田陽一
IT批評家、実業家の尾原和啓氏

【小林】非常に優秀な方ですよね。ただしユーザーの行動履歴や情報のやりとりをマネタイズしているわけで、ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のショシャナ・ズボフはこれを「監視資本主義」と呼んで批判しています。

悪意の有無はともかく、フェイスブックをはじめGAFAはいずれも営利を目的とした民間企業なんですよね。けっして公的機関ではない。僕たちはそのことをもっと認識して、どうつき合うかを考えたい。

「GAFA解体」を公約に掲げたウォーレン上院議員

【尾原】実際、GAFAに対する世間の風当たりは強くなっています。

【小林】そもそも「GAFA」という言い方で4社を1つにまとめて論じたのは、スコット・ギャロウェイ(ニューヨーク大学スターン経営大学院教授・連続起業家)の『the four GAFA』ですよね。

【尾原】ギャロウェイがうまいのは、GAFAを「4騎士」として形容したことでしょう。それぞれ僕たちの欲望を刺激して、世の中をディスラプション(創造的破壊)していくと。そのまま進むと僕たちはいったいどうなってしまうのか、という話だと思うんです。

【小林】本でも触れましたが、テキサス州で毎年開かれるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト=テクノロジーの大規模イベント)の2019年版は、前年までとは雲行きがずいぶん変わりました。「GAFA解体」を公約に掲げて大統領選挙の民主党指名候補争いに加わった(エリザベス・)ウォーレン上院議員(後に撤退)が登壇したり、フェイスブックの関係者が登壇したとたんにヤジが飛んだり。

尾原 和啓『アルゴリズム フェアネス』(KADOKAWA)
尾原 和啓『アルゴリズム フェアネス』(KADOKAWA)

【尾原】SXSWって、日本ではツイッターやエアビーアンドビーが出てきたところ、というイメージを持たれがちです。つまりはネット関連のカンファレンスだと。しかしもともとは、テキサス州というアメリカの中でももっとも保守的な州の、オースティンというもっともカウンターカルチャーな都市で始まった音楽フェスティバルでした。

やがて回を重ねるうちに、そこに映画祭が加わり、さらにインタラクティブフェスの要素も加わり、その延長線上で出てきたのがツイッター。つまり、カウンターカルチャーについていろいろな表現を通じて語り合おうというのがSXSWの本来の趣旨ですよね。

その意味では、カウンターカルチャーが健全に機能しているという気がします。