3日以内で読破したIAEの最新報告書

「集中と選択」に代表されるように西田の経営のスピード感、判断の素早さは誰もが指摘するところだ。その点が、西田の経営が大胆だといわれるゆえんである。こうした西田の判断を支えているものの1つに、非常に高い情報収集能力がある。

今年の6月13日、14日の両日、東京都内のホテルで朝日新聞主催の「2008年 地球環境シンポジウム」が開催された。初日の午後、西田は「今そこにある危機」と題するパネルディスカッションのパネラーとして参加していた。

東芝環境推進部部長、実平喜好はその資料づくり、そして西田が読む原稿づくりを任されていた。原子力事業に注力する東芝だけに、実平らの日常業務から環境問題への取り組みは他の企業を遙かに上回る。それだけに、パネラー西田には時に日本政府、時に財界、時に東芝を代表するような発言が求められた。主語が3つになる難しさはあったが、かなりレベルの高いものができつつあった。

そうしたときである。呼ばれた実平に西田がいうのだった。

「君、こんな本があるんだが、読んだか」

実平が初めて知る本だった。相当に資料を集めていただけに、実平にとっては少なからずショックであった。その本は地球の平均気温が6℃上がった場合、地球になにが起こるかを記した本であった。西田はそれを原書で読んでいた。実平らは早速その本を購入し、資料、原稿に反映させた。講演4日前、実平らは先の本の内容を加味させた新しい原稿を持ち、社長室を訪ねた。実平らを待っていたのは西田のこんな問いかけだった。

「あれが出ただろう。もう読んだか」

あれといわれたものの、実平には何のことかわからず、返答に窮していた。

西田が“あれ”といったのはIAE(国際エネルギー機関)の最新の報告書のことで、3日前に出たばかりのものだった。即座に東京・新橋のOECD(経済開発協力機構)東京センターまで部下を走らせ、総がかりで報告書を訳し、新たに資料を加え、原稿にも手直しが加えられた。最後の2日ほどは徹夜作業で、西田が満足する資料、原稿が出来上がったのは当日の午前11時。西田の参加するディスカッションの約2時間前だった。

(鶴田孝介、永井 浩=撮影)