投資においても同様だ。半導体投資が1兆円を超える東芝。しかし、1兆円を一度に使うわけではない。投資計画に基づいて、毎月毎月、出荷状況、経済環境など投資環境の変化に応じ、投資計画は微調整を繰り返して行う。「CHECK&ACTION」といわれるゆえんだ。
投資案件の承認をもらいに西田のもとを訪れると、専門的な質問が飛んでくる。
「新しい装置を入れたほうがいいんじゃないのか?」
「この装置を使うとこんな問題が出ると聞いているけれども大丈夫?」
西田の“素人”ではない質問に、現場を預かるのは自分たちだという自負から齋藤がむきになって答えるような場面もあるようだ。
「原子力は鯨。それに比べると半導体は鰯。鰯は小さいからね、ちょこまか動いてないとダメなんですね」
齋藤は半導体事業をこんなふうに喩えてみせる。半導体事業に価格下落のリスクはついて回るが、それが半導体事業の宿命だ。西田体制後も、何度か業績見通しを下方修正している。
西田の打ち出す大型投資計画を、「青写真だけなら誰でもきれいなものを出せるから……」と冷ややかに見る業界関係者も少なくない。しかし、齋藤は決して消極的に見てはいない。業績の下方修正なども、「時代が動いている証拠」と見て、どう動くかを考えればいいという。
西田はことあるごとに「危機意識を持て」という。その西田の言葉を実行に移すために齋藤は、3カ月に1度は必ず全国の半導体工場を回り、その間隙を縫っては海外の工場に足を運ぶ。すべて、現場に危機意識を植え付けるためだ。
100万回電話で「やれ」といっても、1回現場に行って「やれ」といわなければ、人間は危機意識など持たない。半導体事業は技術革新との戦い、価格下落との戦いでもある。価格が1週間後に、半額になることだってありうる。だからこそ、西田は半導体にこそ投資し、自らの技術で新しいマーケットをつくり、シェアを取り続けなければならないという。
西田も齋藤もゴルフをやる。ほぼ同じような腕前らしい2人が最近もコンペをし、結果、齋藤が1打差で勝った。齋藤がニヤッと笑って見せると西田は、
「もう俺はおまえとはゴルフをしない」
と息巻き、心底悔しそうな顔を見せた。
「本当に負けず嫌いなんだよね、西田さん」
齋藤は愉しそうに笑うばかりだった。