食後20~30分以内は磨く必要はない
患者さんの回答で多いのは、出勤や外出前の「朝食後」、次に「朝食後と夕食後すぐ」でした。しかし、これまでに述べたように、食後すぐから20~30分以内は唾液分泌も多く、口の中では歯の脱灰と再石灰化が行われているため、この間はとくに、歯磨き剤を使ってゴシゴシと磨くことは避けるほうがよいと考えています。
そのように告げると、「え、食後すぐではないの?」「学校で食後3分以内に3分間磨けと教えられたけど」と驚かれる方はとても多いのですが、歯科学的に口腔トラブルの研究が進んだいまでは、「食後すぐに磨く必要はない。食後すぐの歯磨きの場合、磨きかたによっては口腔の健康によくない場合がある」と考えられています。
その理由を簡潔に述べると、「唾液が1日のうちでもっとも多いのは、食事中と食後だから」です。先述のように刺激時唾液といって、唾液は、唾液腺が刺激されたときに分泌量が増えます。食事中と食後は、噛むことによって三大唾液腺と小唾液腺がいっせいに活発化し、唾液が急増するときです。くり返しますが、食後30分ぐらいの間までに、脱灰と再石灰化が起こって初期むし歯を修復します。
食後の歯磨きはエナメル質を傷つける恐れがある
食後すぐに歯磨き剤を使って歯磨きをすると、せっかく分泌された唾液を洗い流すことになります。歯の再石灰化、抗菌・殺菌や消臭作用をさまたげるのです。とくに、泡立ちの成分である発泡剤が含まれる歯磨き剤を使って強く磨くと、口の中をじゃぶじゃぶと洗濯するようなもので、唾液がごっそり流されることになります。
また、食後すぐは口の中が酸性に傾いているため、歯のエナメル質がやわらかくなっています。すぐに歯を強く磨くとエナメル質に傷がつきやすくなります。また、大人の歯の特徴として、根の部分は、エナメル質の保護がなくて象牙質が露出しているため、とくに傷がつきやすい状態です。
さらに、食後は口の中の細菌は食事とともに胃に流されて激減しているため、丁寧に磨く必要もありません。日ごろは意識しないかもしれませんが、食後の口の中を思い起こしてください。ネバネバしていないでしょう。乾燥も口臭もほとんど感じることはありません。これは、口の中がサラサラの唾液で満たされて細菌もあまり存在しない、良好な状態だからです。食後30分ぐらいはその状態が続きます。