「唾液は天然の歯磨き剤」食後は舌先で歯を磨け

食後すぐに歯を磨きたくなるのは、歯磨き剤に含まれる発泡剤や研磨剤、香料によって爽快感を得られるからではないでしょうか。

確かに、磨いた瞬間はすっきりするかもしれません。しかしそれは、歯磨き剤に含まれる薬剤成分の作用によるそのときだけの感覚です。爽快感を覚えてもらえるように配合されているのです。それによって、きれいに清掃されて口腔の健康を保っていると誤解しがちです。実際には、汚れや食物残渣(食べかす)が取り切れていないということが多々あります。

食後に歯を磨きたいときは、天然の歯磨き剤である唾液を活用してください。舌先を歯ブラシに見立てて、唾液で歯の表面を磨くようになぞりましょう。食後の歯の再石灰化にも大いに役に立ちます。口の中で多くの唾液が流れているほど、歯の表面が洗われて汚れも付着しにくくなるからです。これは食後でなくても「いつでもどこでもできる歯磨き法」です。本を読みながらでもできますので、いますぐ行ってみてください。

一方、空腹のときには口の中が乾燥してネバネバ感を覚え、口臭を自覚することがあるでしょう。この場合は唾液が不足して細菌が増えている状態です。食前に口の中のネバネバを感じたら、水を飲む、水で口をすすぐ、それができないときは、第二章の口腔トレのどれか行いやすい方法を状況によって選び、少しでも実践して唾液分泌を促してから食事をしてください。すると、唾液による嚥下機能が促進されます。

食後は水で口をすすぎ、そのまま飲み込む

では食後、歯間などにつまった食べかすはどうすればいいのでしょうか。

食べかすを取り除いて口臭も抑え、口からのどの粘膜を潤すことができるとっておきの方法があります。それは、「食後、ひとくち程度の分量の水を口に含み、縦に4~5回と横に4~5回、ぐちゅぐちゅとすすいでからゴクンと飲みこむ」ことです。その水を吐き出すのではありません。飲むことで、口臭予防と、のどの奥までの洗浄と保湿になります。

私はこれを「ぐちゅぐちゅゴクン」と名付けて推奨しています。

患者さんには、「お父さんがよくしていて、汚いなぁと家族で話していたのですが……」と驚かれることが多い方法です。しかし、お父さんが正解です。

いまの60歳以上の世代の若いころには、食後にお茶でぐちゅぐちゅして口を洗う習慣がありました。食後すぐは自分の食べたものが口の中に残っているだけで細菌もほとんどいないので、汚いことはまったくありません。災害の現場や避難所で節水を余儀なくされる場合にも、この水すすぎで飲みこむ方法は推奨されています。飲みこむためにも、洗口剤ではなく、水や白湯、お茶ですすぐことがコツとなります。