技法③「読む順序」まず序章、あとは自由
文芸書を読むときには必ず「前から順に」です。作者の意図に身を委ねたいからなのですが、一度だけそうしなくて深く後悔しました。
伊坂幸太郎『死神の精度』はオムニバス形式です。主人公の死神や主要設定は同じですが、彼が関わる対象やお話は章ごとに異なり、どこから読んでも支障はありません。そのハズでした。
全6話のうち2話まで読んで、次に最後の「死神 対 老女」に飛びました。それなりに面白く、また3話目に戻り、4話、5話といって気がつきました。この作品が単なるオムニバスではなく、つながっているのだということが。
最終話で初めて、それが明らかになるはずだったのですが、ときすでに遅し。その展開で初めて得られるはずだった深い感動を味わうことは、できませんでした。
普通のビジネス書には、そんな「精緻な全体ストーリー」や「大どんでん返し」があるわけではないので、大抵読む順番は自由です。
論を積み上げていって、前章での知識がないと、後章が意味不明になるものもあるでしょうが、それは目次を見ればわかります。
その本の自分にとっての価値は「序章」を読めばわかる
でも私が必ず最初に読むのは、(あれば)序章です。そこにすべてが凝縮されているからです。
レヴィットとダブナーの『ヤバい経済学[増補改訂版]』で見てみましょう。
・道徳は世の中がどうあって欲しいかを表すが、経済学は世の中が実際にはどうなのかを表す。基本的には世の中はインセンティブで動いている
・遠くのことが劇的な変化につながるときがある。アメリカの若年凶悪犯罪激増予測が外れたのは、(誰もそう指摘しないが)実は中絶合法化のお陰である。合法的で安価な中絶により、犯罪に巻き込まれやすい階層での出生率が下がったから
・専門家はその情報優位を客より自分のために使う。不動産屋さんの営業担当者は、顧客の物件(家)より自分の家を売るときにもっとも努力し時間をかけ、3%(100万円以上!)高く売る
・通念や常識はだいたい間違っている。「選挙はカネ次第」とみんな思っているが、選挙資金を倍つぎ込んでも得票率は1%しか上がらない。国政選挙に年平均10億ドルがつぎ込まれるが、これは米国でのガム消費金額と同程度に過ぎない
・何をどうやって測るべきかを知っていれば、込み入った世界もわかりやすくなる。面白いテーマを裏側から(経済学の手法で)探検するためにこの「ヤバい経済学(Freakonomics)(※)」という学問分野(?)を筆者たちは立ち上げた
※FreakとEconomicsを組み合わせた造語。Freakとは変人の意味。
自分がこの本を、読むべきか・読みたいかは、だいたいこれでわかります。あと、どこからスタートするかは目次と相談しましょう。そのためにも、本の序章は読みとばさず、しっかり読み込みましょう。本のメッセージや難易度、筆者のスタンスや文体(や翻訳)、がチェックできるので。
読み方を、少し工夫するだけで読書の効率が格段に上がります。それはその本を読むときも、読まないと決めるときも、そして読んだ後の活用においても。まずは「線の引き方」「耳の折り方・付箋の貼り方」「読む順番」を意識しましょう。きっと仕事力アップにつながります。