安倍首相がこのBB社のネクタイを愛用していることは、永田町でも知られる話だが、一目でメード・イン・アメリカのものであることが分かる、「アメリカ式」のストライプのネクタイを誇示することに深い意味があると考える。

それはアメリカに対して、友好、忠誠心を表し、親米派であるというノンバーバルのメッセージを世界に発信できたのではないか。目的を簡単に発信できるという点で、ネクタイほど有効なアイテムはない。

発言の「あいまいさ」と比例するネクタイの違和感

この新型コロナ自粛期間に、安倍首相が、アメリカ式でないネクタイや、曖昧な色のネクタイを締めていることが幾日かあった。

筆者は、主義主張が分かりづらいネクタイから、それを選んでいる人の心情に不安を感じたり、主張に違和感を覚えることがある。

首相官邸のホームページを見ると、日本政府が2月12日に、浙江省発行の中国旅券を所持する外国人の入国拒否を発表している。この日の安倍首相のネクタイは紫のソリッドで、赤でも青でもない曖昧色の紫からは、中国への配慮が感じられた。

3月27日の参議院予算委員会では、見たことのない地味な印象の深緑のバスケット織りのネクタイを締めていた。この日、安倍首相は、野党から雑誌に掲載された昭恵夫人のタレントとの花見の記事について追及され、答弁をされた。昭恵夫人の奔放さが、安倍首相のネクタイに影響を及ぼしたか。

4月1日の政府対策本部の会合で、布マスクを全世帯に2枚配ると発言した時は、ストライプの向きがアメリカ式のものではなく、突如英国式の向きに変わった。国民の支持が得られるのか迷いがあったのではないか。

迷いや苦しい場面で登場する「いつもと逆向きのストライプ」

このネクタイは、実は5月21日にも締められていた。この日は、黒川検事長が賭けマージャンをしていたと報道され、辞任の意向を明らかにした翌日にあたり、安倍首相はとても苦しい立場に追い込まれていたと言えよう。

5月21日、首相官邸でぶら下がり取材に応じる安倍首相。
写真=首相官邸ホームページ
5月21日、首相官邸でぶら下がり取材に応じる安倍首相。

このような日にあえていつもと逆向きのストライプのネクタイを選んだ真意はなんだったのか。無意識に手に取られているのか、それとも戦略あってのことなのか。

これまで挙げてきたことは全て筆者の主観にすぎない。しかし、ノンバーバルも含むコミュニケーションは総じて、発する側(ピッチャー)の思いが、受け取る側(キャッチャー)にそのまま伝わるかと言えば、そんな簡単なものではない。

キャッチャーそれぞれ、千差万別の取り様となる。なぜなら、受け取り方はその人個人の文化背景によるからだ。そして、違和感を覚えたものには共感は生まれない。なので、政治家や企業のトップは第三者のクリティカルな分析を基に、自身の発する印象に責任を持ち、戦略を立てる傾向にある。