そんなブルーカラーの仕事は、作業工程を理解すればすぐにできるというものではない。それに加え、「身体的技術習得」が必要になる。
新人トラックドライバーの場合、それらの習得のために研修期間中はベテランドライバーの助手席に乗る。いわゆる「横乗り」だ。
走るルートや現場ごとにある細かなルール、荷積み・降ろしのコツなどを文字通り体で覚えるのだが、その一方、繁忙期のピークに彼らの教育係となるとベテランは仕事にならならず、時にその新人がトラックの中で一番の「お荷物」になってしまうことも少なくない。
だからといって閑散期に雇うと、今度は物量の少なさから実習にならなかったり、業界に不安を覚えて辞めていったり、繁忙期になった時に「こんなはずじゃなかった」と不満を漏らす人も出てくる。
ブルーカラー雇用のタイミングは、ホワイトカラーよりも難しいのだ。
ただ運転すればいいわけではない
③過酷な労働状況を甘く見ている
トラックドライバーという職は、世間が思う以上に技術と体力を要する、いわば「肉体系職人業」だ。
彼らの業務は「運転」だけではなく、前出の通り、荷物の積み降ろしなどのオマケ仕事を強いられている実態があるのだが、この積み荷を荷崩れせぬようバランスよく積むことは、それほど簡単なものではない。
中でも難儀なのが「手積み・手降ろし」だ。
荷物の積み降ろし時、トラックドライバーはフォークリフトを使う以外に、一つひとつ手で積み降ろしさせられることがよくある。フォークリフトを使用すると、パレット(荷物を載せる板)とパレットの間に隙間(=空間)が生じてしまうからだ。繁忙期や満載時は、この隙間が惜しくなる。
その手積み・降ろし作業の過酷さは想像を絶する。
「30キロの米袋を800個」「スイカ2個入り(約20キロ)を900個」「便器45キロ50台」。時間に余裕もないので、もたもたしている暇もない。
そんな現状を知ってか知らずか、世間から聞こえてくるのは「トラックドライバー“にでも”なろう」という声だ。実際コロナ禍以降のSNSには
「こんな稼げない状態が3年5年と続くようならいっそ大型免許取ってトラックに転職しようか最近少し考えてる」「飲食店で失業してもEC扱ってる物流倉庫の作業員や運び屋の需要は旺盛だろうしそっちにシフトした方が儲かりそう」
などという書き込みが見られるが、筆者を含め現役のトラックドライバーたちは、こうした気持ちを引っ提げ入社し、3日と持たずに辞めていく新人をこれまで数え切れないほど見てきている。
余談になるが、時折テレビのドキュメンタリーなどでも、野球選手が戦力外通告や怪我などで現役を引退し、「第二の人生」としてトラックドライバーに転身した様子を「○○選手トラックドライバーに転身の転落人生」などとセンセーショナルに紹介することがあるが、トラックドライバーという職は、決して転落した先でする仕事ではない。むしろ、野球選手ほどの精神力と体力がないと務まらない職業なのだ。