「底辺職」が一変、コロナ禍で増える転職希望者

こうした中で、運送業界にはある現象が起きている。他業種からの転職希望者の増加だ。コロナ禍で失業した人たちが、「トラックドライバーにでもなろう」と転身する動きがみられるのだ。

私が聞いた話では、免許取得支援制度のある求人に未経験応募者の列ができたり、まだ募集をかけていないのに「近所に住んでいるから」という理由で問い合わせの電話がかかってきたケースがあるという。

かねてトラックドライバーは「底辺職だ」や、「あんな仕事なんてやりたくない」などと言われてきた。

しかし、このコロナ禍では、SNS上で「日本の物流を支えてくれてありがとう」、「自分たちが普段通りに生活できるのはドライバーのおかげ」といった言葉もみられるようになった。

コンビニに掲げられたメッセージ
写真提供=橋本愛喜
コンビニに掲げられたメッセージ

「激忙」かもしれないが、社会のためになる仕事なら頑張ってみよう。そう考える人が増えているのかもしれない。

ただし、運送の現場では、「新人の急増」を素直に喜べない3つの事情がある。

「新人の急増」を素直に喜べない3つの事情

①「運送企業全てが忙しい」という誤解

運送企業が総じて忙しいと思ったら実はそうではない。

物量が減り、現役のトラックドライバーでさえも仕事がないという声は多く、中には「平日でも2日しか仕事に出ていない」「(洗車する時間がたっぷりある)おかげで最近トラックが毎日ピカピカ」というケースもある。

運送企業は会社ごとに運ぶ物が異なる。木材や砂利を運ぶ会社もあれば、食料品やトイレットペーパーを運ぶ会社もある。そのため、コロナ禍で繁忙を極めているのは、生活必需品や戸別配送を行う配送企業ということになるわけだ。

全日本トラック協会の「日本のトラック輸送産業現状と課題2018」によると、平成28年度の「消費関連貨物」は全体の32%程度。現在物量が激増している食料品やトイレットペーパーなどの「生活必需品」は、ここからさらに絞られる。

また、この「消費関連貨物」以外の輸送においては、木材や砂利、廃棄物などの「建設関連貨物」が37.3%、そして、製造現場で使用する金属、機械、石油などの「生産関連貨物」が30.4%を占める。

周知のとおり、コロナで経済活動は著しく鈍化。生活必需品以外の輸送に携わるトラックはそれに引っ張られるように物量が減り、ドライバーの仕事も薄くなっているのが現状なのである。

「こんな忙しい時に新人を入れないでほしい」

②繁忙期は新人が「お荷物」になってしまう

一方、コロナ禍で繁忙を極める現場のトラックドライバーからは「こんな忙しい時に新人を入れないでほしい」とする声が大きい。

ブルーカラーの世界では、それまで全く予想だにしなかった閑散期と繁忙期が突如としてやってくることが多々ある。とりわけこうした有事の際に大きな製造ラインが止まったり、デマや不安心理から買いだめ買い占めが生じ突然量産せねばならなくなったりすると、裾野が広い分その影響は甚大だ。