日銀は各国中央銀行のカナリア役

長期国債爆買いによって、今や日銀のバランスシートの規模は対名目GDP(国内総生産)比で100%を越した。経済規模に比べてお金を無茶苦茶にばらまいてきたということだ。

それでも、今のところインフレの気配もなければ、表面だった問題点は現れていない。他国の政府・中央銀行がそれを見て、日本のまね(=大型財政出動&中央銀行の国債買い取り)をしたいとの誘惑にかられるのも、もっともな話だ。

日銀はいわば炭鉱のカナリア役だ。有毒ガスを感知するカナリアを炭鉱に持ち込む。カナリアがさえずるのをやめたり、死んでしまえば炭鉱夫は逃げ出すのだ。

日銀の対バランスシート規模対GDP比100%超えなのに対し、FRB(米連邦準備制度)は約20%、ECB(欧州中央銀行)は約40%にすぎない。先頭を行く日銀がハイパーインフレや中央銀行の倒産を引き起こせば、すぐに軌道修正可能な位置に他国の中央銀行はいる。日銀の壮大なる実験結果を注視しながら大胆な策を打てるのだ。

安倍政権が大胆な財政政策に踏み切れない理由

今回のコロナ禍に対し米国、ドイツが大胆な経済政策を打つ一方、日本の政策が非常にみみっちく見えるのはこのせいだ。

他国は「日銀がまだ危機に陥いっていないから同レベルまでは大丈夫」と大胆な政策を打てる。一方、日本政府・日銀は未知の領域に足を突っ込んでしまっているからビクビクしながら進まざるをえない。

安倍晋三首相は、今こそ大胆な財政政策を打ち出したいに違いない。それをやれば「日本の窮地を救った名宰相」として歴史に名を残せる。自民党も次回選挙で圧勝だ。逆に大胆政策を打たなければ政府の評判はガタ落ちとなるのは明らかだ。

なのに、安倍首相は大胆政策がとれない。それはそんな政策を採った途端に日銀が臨界点を超えるのが怖いのだ。その他に、どんな理由があるというのだろうか?

お金を刷ってばらまくほど出口戦略の困難さが増す

日銀のバランスシートが対GDP比で巨大になる(=お金を銀行市場にばらまいている状態)と何が問題か? 現時点では銀行間市場にお金が溢れているだけだが、前向きにしろ、後ろ向きにしろ、銀行融資が増加すると信用創造で市中のお金が膨れ上がる。

マネタリーベースと言ってベースがつくくらいだから銀行間市場にあるお金はタネ銭だ。タネ銭が少なければ市中に流れるお金はいくら増えても限度があるが、多ければ加速度的に増加する。そうなるとお金の価値が減価しハイパーインフレを引き起こす。それが歴史の教えだ。しかも今回は不景気な環境においてのインフレ、すなわちスタグフレーションに陥る可能性がある。