また、バランスシートが対GDP比で巨大になればなるほど、日銀の「金融緩和からの出口」は難しくなる。政策金利を引き上げ、景気回復時に市中にばらまいた資金を急速に回収しなければならない。金融引締めだ。景気を良くしようと動いていた今までとは真逆のオペレーションが必要となるわけだ。
真逆の資金回収手段とは日銀保有の国債を市中金融機関に売り渡し、資金を回収することだ。しかしそんなことをしたら金利急騰で財政が破綻してしまう。FRBも昨年までの量的緩和の縮小に際し、ここで悩んだ。そこでFRBが採用したのは「満期待ち」手法だ。
日銀にもその方法しかないだろう。しかし満期が来た債券の乗り換えもできず、日銀が臨界点を超えてしまう可能性がある。このコロナ禍の最中に中央銀行がアウトになったら、それこそ目も当てられない。困窮者が急増する。繰り返すが、それを自覚しているからこそ日本政府は今、大型財政出動に及び腰なのに違いない。
トマ・ピケティの警告は無視され続けている
格差論で有名なフランスの経済学者トマ・ピケティ氏が『トマ・ピケティの新・資本論』の中でこう述べている。
「ヨーロッパから見ると、日本の現状は摩訶不思議で理解不能である。政府債務残高がGDPの2倍、つまりGDP2年分にも達するというのに、日本では誰も心配していないように見えるのは、どうしたことか。(中略)われわれは日本の政府債務のGDP比や絶対額を毎日のように目にして驚いているのだが、これらは日本人にとって何の意味も持たないのか、それとも数字が発表されるたびに、みな大急ぎで目をそらしていまうのだろうか」
この原著は2012年の刊行だがトマ・ピケティ氏の危惧は現実化していない。なぜピケティ氏の心配が杞憂に終わっているのだろうか? それは2013年4月、黒田日銀が、想像だにしていなかった異次元緩和を始め、財政破綻危機を将来に飛ばしてしまったからだ。
ピケティ氏の母国フランスや、財政危機が話題になったギリシャでは、中央銀行が政府を助けられない。政府が資金繰り倒産しそうになっても、新しく紙幣を刷って渡せない。通貨ユーロを刷る権利はヨーロッパ中央銀行(ECB)にあって、各国の中央銀行にはない。
ところが日本では、日銀が必要なお金を刷って政府に渡している。だから政府が資金繰り倒産をしないで済んでいる。トマ・ピケティ氏がこの本を書いたとき、彼も、まさか日銀が「異次元緩和」という「後は野となれ山となれ」政策を採るなどとは思っていなかったはずだ。こんなことを出口も考えずに日銀が無責任に行うとは、想像だにしなかったはずだ。