男性は自らの「不妊原因」に目をつぶりがち
不妊治療は経済的に加えて、身体的な負担も大きい。
「体外受精の場合、毎日来院して注射をしなければならない。値段は数倍かかりますが、都市部では、毎日の注射のための受診をしないかわりに自己注射を選ぶ人も多い。10〜20年くらい前は、治療に必要な注射の回数が多く、そのために、腕がひどく腫れたものです。度々の診察や、麻酔をして卵巣から卵子を採りだす採卵も必要であり、これらは女性ばかりに負担がかかる治療です。もし、男性も頻回の診察や、毎日の注射が必要ならば男性側の意識はずいぶん変わることでしょう」
また不妊の責任は、女性に押しつけられることが少なくない。不妊治療における男性側の理解不足を嘆くのは、泌尿器科の本田正史准教授である。
「一般的に不妊の原因が男女両方にあるのがだいたい4分の1。男性にだけ原因があるのがやはり4分の1。男性側に起因しているのが約半数。女性側のみに原因があるのは4割ぐらいしかない。それにも関わらず日本では、夫が妻とともに最初から不妊治療に来る場合はほとんどない」
男性側に起因する不妊の原因の9割は、妊娠に足る精子が作られていない「造精機能障害」である。これは精子の〈量が極端に少ない〉〈濃度が薄い〉〈運動率が低下〉〈奇形率が高い〉の4つが挙げられる。
「これらはだいたい連動している。どれか1つが悪い人は他も悪い。しかし男性が自分の精子に問題があるから調べてほしいという人は少ない。女性側の不妊治療がある程度進んで、どうも男性の側に原因があるのではないか、泌尿器科で相談したほうがいいということで初めて来院するパターンが多い」
「睾丸の上にもう1つ睾丸があるような感覚」
残りの1割は精子の流れが悪い「精路障害」だ。これは幼児期、少年期に鼠径ヘルニア、脱腸の手術により精管が何らかの形で圧迫され炎症などを起こしている場合だ。
「造精機能障害のうち6割はなぜそうなったか分からない。原因不明です。残りの4割弱は精索静脈瘤という病気。精巣から心臓に戻る静脈内の血液が逆流し、精巣の周りに静脈の瘤ができてしまう状態を指します。瘤ができると血の巡りが悪くなって、精巣の温度が上がる。温度が上がると造精機能が落ちる」
統計的にみれば、一般成人男性のうち約15%は精索静脈瘤を抱えているという。
「睾丸の上に、もう1つ睾丸があるような感覚です。激しい運動をしたときに痛みが出やすい。休むと楽になるので、病院に行かない人が多い。若いうちに気がついていれば、将来的に造精機能が低下することを防ぐことができる。15%ですから、(とりだい病院のある)米子市でも相当数、該当する人はいるはず。山陰地方で精索静脈瘤の手術をしているのは、とりだい病院と鳥取市の1つの病院だけ。しかしとりだい病院は年間10件にも満たない数です。どう考えても人口には見合わない。みんなだましだまし生活しているんでしょう。それが造精機能障害につながっていることを自覚していない」