凍らせた精子を融解しても妊娠しにくい
原因の第一は、妊娠に関する情報不足にあると谷口は考えている。
「子供が欲しくなれば、いつでも妊娠できると楽観的に考えている節がある。人間はほ乳類の中でも、妊娠しにくい生物なのです。流産率も低くはありません。近年の女性の社会進出により、夫婦ともに仕事が忙しくて、妊娠しやすい日に夫が家にいないということも少なくない。夫の仕事が忙しくて性交のタイミングがとれない場合には、精子を凍らせて保存するということもあります。しかし精子を凍らせると、そのあと融解しても生存率が低下してしまい、妊娠しにくくなる。そういった妊娠に関する知識が不足している」
何よりも、妊娠の障害となっているのは晩婚化である。厚生労働省の資料によると、2017年度の平均初婚年齢は男性が31.1歳、女性が29.4歳。女性の平均初産年齢は30.7歳と30歳を超えている。
「体外受精の成功率はおおよそ2割から3割。体外受精の場合、流産の可能性は通常よりも少し高くなって約2割。多額の費用をかけて治療しても、妊娠を得られない人がたくさんいるということです。その原因は卵子の加齢による遺伝子レベルの異常です。残念ながら、年齢とともに卵子も精子も徐々に衰えていく」
女性の妊娠適齢期は「15年」しかない
生物学的に、人間、特に女性には歴然とした妊娠適齢期がある。
「女性の卵巣に含まれる卵子の数は、思春期のときには、だいたい7万個ある。それが年齢とともにだんだん減っていく。女性が生物的に妊娠可能となるのは15歳頃から。社会的には結婚は20歳前後ぐらいからとして35歳までの15年間ぐらいが妊娠適齢期で、長いとは言えない。38歳あたりから妊娠率が低下することは分かっています。そして30歳と50歳では卵子の質が違うのです」
多産だった時代と比べて現代女性の月経回数、つまり排卵の回数は著しく増加している。それにより、ホルモン依存性疾患といわれる子宮内膜症や子宮筋腫にかかる可能性も高くなった。これらが妊娠成立の大きな障害となることも少なくない。
谷口によると、女性が40歳を超えると、たとえ不妊治療を受けても妊娠率は約1割しかないという。
「40歳台になると妊娠しても、流産率が高くなる。妊娠が得られても、お産に関わる病気も増える。一度の治療で妊娠が得られることもあるが、年齢とともに、成功率は落ちる。45歳を過ぎて妊娠できた人も非常に稀にはいるが、残念ながら、お金をかけて、治療回数を重ねても、妊娠を得られる可能性はかなり低い」
不妊治療の難しさは、治療の終わりをどう判断するか、なのですと谷口は付け加えた。