電車内は、私にとって情報収集に格好の場所だ。新聞や本を読み、吊り広告を眺める。新聞を読んでいて思いついたことは、一センチほどの新聞の余白に書き込む。読む本は「勝負師」に関わるエッセイやカリスマ営業マンの本など、仕事には直結しない雑学の類が多い。面白いと思った個所には線を引くか、ページの端を折っておく。本を読めないときは吊り広告を見て、世の中の動きやトレンドをつかむ。

さまざまな情報整理術を試した結果、行き着いたのが、「アナログ」でためる方法
さまざまな情報整理術を試した結果、行き着いたのが、「アナログ」でためる方法

人と話していて「面白い!」と思えば、「これは今度使えるかもしれない」と頭の中でマークし(印をつける)、その後は忘れてしまう。意識的に覚えようとはしない。電車内で目を留めた本の一節や吊り広告も、あらためてコピーしたり、メモに残したりという面倒なことはしない。頭の中に「マーク」するだけで、何かの拍子に思い出す可能性は高くなる。

こうして集めた情報は、「リーダーシップ」「電子マネー」「仮説思考」「運」などとタイトルをつけた頭の中の“引き出し”にしまっておく。この引き出しも、特に整理したりはせず、移り変わるトレンドに合わせて、ときどき自動的に入れ替える。引き出しというより、いわば何でもため込む“ダム”である。情報がイメージとして入っており、取り出して何か話ができる程度にしておく。

無駄なように見える頭の中の引き出しだが、実はビジネスで直面した課題の解決策を考える際、大いに役立つ。「面白いアイデアを持っている」と言われる人は、頭の中にその人なりの充実した引き出しを持っている場合が多い。

スピードと質の双方が求められるビジネスの現場では、仮説を立て、物事を答えから考える「仮説思考」が重要になる。まず「仮の答え」である仮説を立ててから、細かい作業にかかるという方法で、コンサルタントの必須スキルだ。この仮説の立て方は各人各様で定石はないが、私は「突然ひらめく」ことが多い。

なぜ「ひらめき」で仮説が生まれるのか。それは、一見すると仕事には役立ちそうもない情報が頭の中にたまっているからだ。自分のダムの中から、目前の課題の構造と類似した情報を引っ張ってきて思考を巡らせ、仮説を立てる。情報を取捨選択し、本質を読み取るには、自分が得意な情報の収集と活用のパターンをつかむことが大事なのである。