「最高のもの」は誰も無視できない

推進者が生み出す「最高のもの」は、誰も無視することはできず、人間を前進させる大義への共感となって人を動かします。積極的に反対する人で、強い意見や考え方を持つ人は、インサイトを掘り下げると、互いに共有できる考え・想い・価値観に到達することがあります。

かつては「敵」として対峙した人が味方に転じると、誰よりも心強い擁護者、唱導者となりえます。アップルに勤めていたときに限らず、ほかでもこれを経験しました。

ディスラプションはナノレベルで創造される

3つ目は、「フォーカスしインパクトを極める」です。

スティーブはアップルの破壊的イノベーションによって、クリステンセン教授が世界に投げかけた命題となる「イノベーターが抱えるジレンマ」を見事に解決してしまったと、オールワースは述べています。それを可能にしたのは、優先順位を利益から転換し、徹底的に製品(とテクノロジー)にフォーカスしたことです。

スティーブの視点や洞察は常に緻密でありながら、思考と行動のスケールは「宇宙にへこみを残す」という言葉の通り、壮大なものでした。アップルの優れたところを挙げるとき、見た目のデザインと印象に目を奪われがちですが、スティーブのこだわりは最も小さいところに細やかに施されていて、ディスラプションは現実を歪曲するのではなく、ナノレベルで創造されていることがわかります。

スティーブが一見傲慢で自己中心的と映るのも、スティーブの思考が、人間が知覚できる時空を超えて、ナノレベルの世界から太陽65億個分の質量を持つブラックホールまでにも及ぶ次元を見据えていたからかもしれません。

アインシュタインやスティーブに匹敵する知覚と思考を持ち合わせる人間はそう多くはいないでしょうが、彼の意志は確かに周りの人々に伝播し、一人一人の中に大きく膨らみました。ディスラプションに直接携わった社員やベンダー、そしてデベロッパやサプライヤー、また生まれた製品とテクノロジーをツールとして使って自分の創造力の実を結ばせるユーザがその先にいます。