早ければ2015年から上場会社を対象に強制的に適用される「IFRS(国際会計基準)」。日本では産業界との調整などさまざまな検討が行われているが、導入はほぼ決定的と考えていいだろう。

IFRS導入によって大きな影響が出そうなものとして、「収益認識基準」があげられる。簡単にいうと、いつの時点で売り上げを計上するかについての統一基準である。

現在、日本では商品を出荷した時点で売り上げを計上することが多い。しかし、IFRSでは「一定の要件を満たした場合に売り上げを計上する」というルールに則ることになる。主な要件として、リスクや経済的な価値が買い手に移転し、物品を管理・支配したりできない(つまり買い手に管理などが移っている)という項目がある。

ここでのリスクの一例として、出荷はしたものの、輸送途中でアクシデントに見舞われて買い手に物品が届かないケースがあげられる。この場合、契約内容によっては、リスクが買い手に完全に移転したとは言い難い。そうした意味では買い手が物品を検品して「確かに受け取りました」と確認された時点で、売り上げを計上することは合点がいく。

最終消費者に店頭で商品を手渡しする小売業など、商いの相手が個人で、物品と現金を同時に受け渡しする業種では影響が小さい。しかし、遠隔地への発送や輸出企業など物品の輸送に時間がかかる場合はどうか。

たとえば、決算直前に出荷して、買い手に届くのが決算後だとする。前述のとおり、現状では出荷時点で売り上げを計上するケースが多く、その取引は当期の決算に組み入れる。対してIFRS適用後は、買い手に物品が届いた時点、つまり次期の売り上げとして扱うことになるかもしれない。収益認識基準が変わることで、売り上げが減少する可能性があるわけだ。

IFRSで大きく変わる収益の認識

IFRSで大きく変わる収益の認識

また、IFRSでは家電販売のポイント特典や航空会社のマイレージなど、顧客に特典クレジットを付与する場面が想定される取引にも留意が必要だ。

たとえば販売価格1万円の5%をポイントとして付与するような場合である。現状では、1万円の売り上げを当期に計上し、ポイントを付与したことによって将来儲けが減る分については、ポイント引当金などを負債に計上する会計処理が一般的だ。

しかし、IFRSの考え方では、販売価格1万円から5%のポイント分が除かれ、当期の売り上げが9500円となる可能性がある。つまり、ポイント付与分は売り上げの減少につながり、企業にとって頭の痛いところであろう。

当然、このような変更が生じると、企業内では会計システムを再構築する必要があり、導入コストがかさんでくる。

欧州企業がIFRS対応のために必要とした初期費用のデータでは、プロジェクトチームの人件費、ソフト・システム変更費用の負担が重くなっている。外部監査や税務アドバイスなどを含めた総額は、中規模程度の上場企業で、日本円に換算すると1社平均9500万円程度という調査結果もあるようだ。売り上げ規模や事業内容によって金額は異なるはずだが、いずれにしても重い負担となる。

IFRSは文字通り会計基準を国際的な統一基準にしようというものである。考え方も捉え方も異なるさまざまな国の企業で会計基準を統一するには、ルールを明確化せざるをえない。欧米に比べて契約社会とは言い難く、慣習に沿って物事を進めることが多い日本にとっては、取引条件を明確にしたうえで契約を交わすといった意識改革も必要になってくるだろう。

基準の明確化とシステム変更、それに伴う経済的負担――。混乱のないように準備しておきたいものだ。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)