東京の客が「倍払うから泊まらせてくれ」

ただ、気になる話がある。岩手県内の観光業関係者によれば、すでに先週末、かなりの「疎開」が行われていたというのだ。

「ツアーは軒並み中止になっていますが、ホテル・旅館が個別に対策を講じない限り、観光客は予約サイトを通じてやってきます。そして『COVID-19が本格的に流行して以降、先週末が一番混雑した』施設はひとつやふたつではありません。

コロナ感染が嫌で、絶対に宿泊を拒否したいのなら、そもそも予約サイトには出すべきではないのですが、インバウンドの穴埋めにどうしようも無い状態です。お金のために命を犠牲にはしたくないのですが、どこかでコロナを甘くみているのでしょうね」

別の旅館関係者はこう語る。

「毎年東京から来ていただいているお客様がいらっしゃいましたが、今回はさすがにお断りしようと思ったのです。なので電話をして今年に関しては宿が老朽化して改築するので、と言って断ろうとしました。すると、倍の料金の部屋でもいいので空いてないかと頼まれ、最後にはOKしてしまいました。地元の皆さんは(東京の)足立ナンバーのクルマが駐車場にあることで不安に思う人もいるでしょうし、本当に申し訳ない気持ちです」「発熱している様子だったら、さすがに病院にご連絡したいなとは思うのですが、その場合、当施設が風評被害に遭うことになりそうですね。連絡もせず、お客様には東京へお帰りになっていただき、営業を休止するのが現実的な判断となりそうです」

「泊まるなら岩手の宿運動」の失態

そのような状況が確認できているのであれば、施設側に受け入れの自粛を求めることはできないのか。

「旅館業法には宿泊拒否に関する規定があるので、簡単にはお客さんを追い返せませんし、行政が自粛を求めて素直に応じるような施設はとっくに自衛策を取っていますよ。2月以降の宿泊客減少、年度末の会議・懇親会・宴会のキャンセルで、施設のほとんどが大打撃を受けています。不謹慎な言い方になりますが、東日本大震災の追悼行事中止も痛かった」

地域によっては大規模な催しができる施設が1、2軒しかないこともザラだ。地域の看板という立場からプライドが高いが、年度末の書き入れ時がパーになったため、精神的なダメージも大きいという。

「『疎開』を防ぐ気力がないほどにひどい財政状況のはず。他人に促されて、即倒産につながる決断をできますかね。しかも、県がちょっとしたヘマをやらかした直後ですよ」

ここで言う「ヘマ」とは、岩手県といわて観光キャンペーン推進協議会が主催する『「泊まるなら岩手の宿運動」~泊まって、食べて地元を元気に応援キャンペーン~』のことだ。4月1日に開始されたこのキャンペーンの趣旨は、県民による内需喚起を促そうというもの。しかし、県民を対象にしていることがわかりにくく、県外からも人を呼び込んでしまうのでは、との指摘が相次いた。結果、サイトの画像に「県民の皆さまへ」というフレーズが急遽きゅうきょ付け足された。