子は父親との遊びの中で社会性を学ぶ

霊長類学者の山極寿一は、ゴリラの子育てにおける父親の役割に関して、つぎのように述べている。

「ゴリラの社会は父という存在をもつがゆえに、人類の家族につながる特徴を多く保持していると思われるのである。」
「ゴリラのオスは特別子育てに熱心というわけではない。新生児には無関心だし、生後一年間は母親も子供をオスに近づけない。子供がオスを頼るようになった後も、オスは積極的に子供に近づこうとはしない。ただ、子供に対してすこぶる寛容で、子供が接してきても拒まない。子供たちが近くで食物をとることを許し、自分の体の上で遊ばせ、けんかの仲裁をしたり、外敵を追い払ったりする。教育者というよりは物わかりの良い保護者であり、子供の遊び相手といった役割を果たしている。」(以上、山極寿一「家族の自然誌―初期人類の父親像」黒柳晴夫他編『父親と家族―父性を問う―』早稲田大学出版部所収)

このような記述を読むと、私たち人間の社会の父親の態度によく似ていると感じないだろうか。子どもと心理的に距離を置いているため冷静に対応できる。身のまわりの細々としたことに気を配るよりも、一緒に遊んだりケンカを仲裁したりして仲間とのかかわりに必要な社会性を注入する。

「人類の社会では、さらに子供の成長期間が伸び、成長期に子供が母親以外の仲間によって社会化される必要が生じて、父親の役割は一層重要になった。子供を母親の影響から引き離し、他の子供と対等なつき合いを学ばせるために、その子供から少し距離を置ける保護者として、父親は恰好の存在だったと思われる(後略)」(同書)

父親は子どもと遊んでばかりと批判されがちだが、子どもはそのような父親とのやりとりの中で、社会の中で生きていく上で大事なことを学んでいるのである。

一緒に遊ぶことで気持ちのふれあいがもてる

心理学的な研究においても、心理的発達の度合いの高い子は、父親とよく遊ぶ傾向があることが示されている。また、父親とよく遊ぶ傾向がみられる子どもは、情緒性、社会性、自発性が高いといった知見や、父親の日常的な遊びが3歳児の情緒的および社会的発達に好影響を与えるといった知見も得られている。

たとえば、してはならないことを子どもに教えたり、子どもの言いなりにならなかったりする父親は子どもの発達に好影響を与えることがわかっているが、そのような父親の影響力があるのも、一緒に遊ぶことで日常的に気持ちのふれあいがもてているからと言えるだろう。

さらには、父親ならではの活発で動きのある遊びが、母親との二者関係から新たな人間関係へと世界を広げる有効な刺激として働くということも指摘されている。父親との身体を使った遊び体験を通じて、子どもは自分をコントロールしながら他者からの攻撃的な行動に対処することを学ぶということも言われている。子どもの気持ちに敏感であると同時に子どもの挑戦を引き出しながら遊ぶ父親の態度が、子どもの発達に好ましい影響を与えるということも報告されている。