教育心理学者に推薦させる業者も

私が子育てをしていた頃も、子どもビジネス業者からその手のチラシが入ったり、ダイレクトメールが来たりした。

「あなたのお子さんの教育はすでに0歳から始まっています」

などといって、0歳児からの早期教育を売り込むダイレクトメールが来たこともあった。それがとくに印象に残っているのは、推薦者として、私と同業である教育心理学者の名前が記されていたからかもしれない。

もし私が同業者でなかったら、多少の焦りを感じたに違いない。それほど巧妙な戦略が取られている。だが、私は教育心理学者としてその手の情報に精通していたため、「こんな宣伝に名前を貸して小遣い稼ぎをしてるんだなあ」と思う程度で、焦って早期教育に走ることはなかった。そして、子どもたちを伸び伸びと遊ばせていた。

わが子の友だちも学習塾やいろんな習い事に通っている子が多かったため、曜日によって遊ぶ相手が違ったりしていた。私も仕事柄土日だけでなく平日も時間の自由がきくことが多かったため、子どもたちをしょっちゅう街や自然の中に連れ出し、一緒に遊んだものだった。そんなとき、わが子について幼稚園の園長先生から、

「いつも元気に遊び回っていて、うちの園で一番子どもらしい子どもです」

と言われ、とても嬉しく思った記憶がある。

早期教育は確かに効果があるが…

では、早期教育には、はたして効果があるのだろうか。そこのところが気になるという人も多いはずだ。

勉強でも、芸術系やスポーツ系の習い事でも、それぞれに工夫された教材なりプログラムなりに基づいており、熱意ある講師や指導者によって行われるのであろうから、よほどいかがわしいものは別として、効果がないわけがない。

学習塾を例にあげると、早期教育で文字を教えられた子は、周りの子が絵本の文字が読めないため大人に読んでもらっているのに、自分で読めるようになったりする。早期教育で計算を教えられた子は、周りの子が計算などできないのに、足し算や引き算ができたりする。

英会話塾にしても、簡単な単語や言い回しを教えられれば、周りの子が英語など聞いてもわからないのに、しゃべったりするようになる。

そのような意味では、早期教育には効果があると言わざるを得ない。では、そうした早期の学習をさせるべきなのかというと、けっしてそういうわけではない。

ここで慎重に考えなければならないのは、早期教育の意義である。効果があるということと意義があるということは違う。まったく別次元の話である。そこのところを混同しないようにしたい。