その言葉どおり、「正直であれ」「欲張るな」「ウソを言うな」という、誰もが子供の頃に親や先生から教わった初歩的ともいえる道徳観、倫理観で構成されています。

しかし、現実のビジネスの場面では、多くの人間のエゴが渦巻いています。例えば、顧客との交渉について上司に報告書を書くような場面で、自分の評価を高めたいという私心が少しでもあると、正しい報告書は書けません。それではいくら一生懸命努力しても、その人自身はもちろん、会社にとってもよい結果は生まれません。エゴが現実を直視する目を曇らせているからです。

自分の内面を見つめ直す時間を持つ

稲盛さんは「若い頃の自分は、表現力に欠けていた。それが非常に悩ましかった」と話していました。裕福な家庭ではなかったので、子供の頃は本を読むことができなかった。だから自分は語彙力が足りず、表現力が乏しかったのだと。そこで、経営者となり社員やお客様に話をする機会が増えるようになると、経営書だけではなく、哲学書や宗教書なども一生懸命読み、語彙力・表現力を高める努力をしたそうです。私自身も稲盛さんに「語彙力がないと、自分の思いを正確に表現できないぞ」と、よく戒められたものです。

私は、稲盛さんから「もっと本質的に考えなさい」ともよく注意を受けてきました。本質をつかむために、まず必要なことは、自分の内面を見つめ直す「内省の時間」を増やすことではないでしょうか。ITツールを積極的に活用することで生まれた時間を、心を静めて「なぜ自分はそのような判断をしたのか」と深く考えるために使ってほしいと思うのです。そうすることで物事の本質は少しずつわかってくるのではないでしょうか。

稲盛さんも、心を静め、瞑想するような時間をできるだけとるようにしていたと話していました。朝には前日の自らの行いに想いを巡らせ、反省する習慣もありました。

メモというのは、ある事象に遭遇して、心の中に生まれたイメージや想いを文書化する作業ともいえます。簡単に思えて、実に難しいことです。エゴが少しでも入ると、信用という最も重要な財産を失ってしまうかもしれません。ですから、稲盛さんがそうであったように、誰から見ても正しいメモが作れるように地道な努力を重ねることが重要だと思うのです。そのような習慣は、自分を高めていくうえで最高の宝物となるはずです。

(文=梅澤 聡 撮影=石橋素幸)
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