独裁政権は、民主的政権よりもむしろ体制の安全の保持に力を傾けなければいけないという部分はある。しかし、権威主義体制ならばみな同じだとも言えず、中国の一見一貫していない行動原理は、それだけでは説明できない。

父親が絶大な権力を持ち、息子たちは平等に扱われる

カギとなるのは、フランスの人類学者エマニュエル・トッド氏の研究で示された家族制度の類型だ。中国では家長である父親が絶大な権力を持ち、息子たちは平等に扱われる。日本のように組織立った階層構造ではなく、常に家長との個人的な関係がモノを言う。息子たちは絶えず家長の機嫌を窺い、忖度する必要が生じる。息子たち相互の関係性はむしろ相互不介入に近い。

従って、そのようなシステムに危機が訪れるのは、革命のように息子たちが手を取り合って父親を倒すときか、それとも家長が弱体化したときである、ということになる。

こうした論理を使い、著者は家長の寵愛を争う息子たちである党、軍、国のラインに位置付けられる各機関や、地方政府などの個別アクターが取る行動、その結果としての中国の政策を説明する。

なぜ弱い家長(胡錦濤政権、当時)のもとで尖閣諸島周辺海域での海警の活動が活発化したのか。中国人はなぜ明快な指示なしに自発的にデモや他国批判などの行動に出るのか――著者は現代中国の地方政府や企業の置かれた過熱する自由競争の環境と、彼らが受ける抑圧の双方を説明する。なかなかの技だ。最後、あとがきに微笑まされた。

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