事件の背景にあった4つのポイント

私は、2018年5月から8月まで当社が発行する「週刊全国賃貸住宅新聞」に「シェアハウスの投資検証」という連載を10回にわたって書いた。このような事件が起きた背景には4つのポイントがある。

1つ目はマイナス金利だ。2016年に日銀がマイナス金利を発動したことにより、金融機関は融資を積極的に行わなければならなくなったが、そのときスルガ銀行をはじめ地銀がこぞって目を付けたのが、個人の不動産投資への貸し付けだった。担保が取れる不動産は、融資しやすかったからだ。

当時、いくつかの地銀の融資額が、本社のある地元よりも東京にある支店の方が多いという話をよく耳にしたが、中でもスルガ銀行は群を抜いていた。サラリーマンに対し、他行が金利1~2%前後で融資していたとき、4.5%と金利は高かったが、年収に応じてフルローンで融資した。取材したある年収1500万円のシェアハウスのオーナーには3億円の融資枠が設定された。そんな融資枠を提示されたため、そのオーナーは2棟も買ってしまったという。

2つ目は長寿化だ。長寿化と年金不安によって、人々の老後生活への不安は一層高まった。

一見便利なサブリースの落とし穴

3つ目は、金融機関の融資姿勢の変化の結果とも考えられるが、不動産投資で成功したと語る人の話を直接聞いたり、テレビや新聞・雑誌で見かけたり、セミナーで聞いたりする機会が増え、給料以外の収入の道を模索していたサラリーマン層に、「自分にもできるのではないか」と感じさせる空気が醸成されていった。とはいえ本業があるので、賃貸経営との両立ができるのかとの不安は残る。

その懸念を4つ目の「サブリース」という仕組みが払拭した。サブリースとは、運営会社がオーナーから1棟丸ごと借り上げることで、家主は空室による家賃収入の減額リスクを回避できるばかりか、自分の代わりにシェアハウスの管理・運営をしてくれるという一見便利な仕組みだ。

しかし、サブリースにもデメリットはある。最初に提示された家賃でずっと借り上げてもらえるわけではなく、入居状況が悪ければ、予想以上に家賃を下げられるリスクがある。前述した「かぼちゃの馬車」のサブリース家賃は実際、絵に描いた餅で、運営会社は経営破綻し破産に追い込まれている。