給付対象を絞っているほど時間はない
「国民全員に一律で行うのではなく、事業の継続のため、生活を維持していくために必要な額をできるだけ提供したい」としているのだ。一見、正論のように聞こえる。
だが、最大の問題はスピードだ。誰を給付対象にするか、決めるのには一定の審査プロセスが必要になる。いちいち基準を決めていたら給付までに時間がかかる。日本の国会プロセスではどんなに早くても5月末にならないと給付が実現しない。
また、給付対象を絞ることが「公平」かどうかも分からない。仮に年収を基準にしようとした場合、確定申告の期限が延長されているので、使えるデータは2018年の年収ということになる。困っているかどうかは、2年前に年収があったかどうかではなく、今、新型コロナで影響を受けているかどうか、なのだ。
米国での現金給付は4月中旬には実施されるとみられている。国会を通すスピードも、実施されるスピードも「さすが米国」と言わざるを得ないだろう。
4月の人件費に困る企業が出てくるだろう
新型コロナの蔓延による経済の猛烈な縮小は、リーマン・ショックや東日本大震災の比ではない。経済活動が止まり、一気に売り上げが消えているのだ。
日本銀行が4月1日に発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業・製造業でマイナス8となり、2013年3月調査のマイナス8以来、7年ぶりのマイナスとなった。前回2019年12月調査のゼロから8ポイントの悪化で、悪化は5四半期連続となった。
急速な悪化を示しているが、まだまだ序の口だろう。短観の調査はほとんど3月20日以前に回答されており、新型コロナの影響が深刻化する前の調査だとみておくべきだ。中小企業の製造業はマイナス15だが非製造業はマイナス1で、この調査に新型コロナの影響はあまり出ていないと見るべきかもしれない。
3月20日から22日までの連休は東京・渋谷などでも飲食店は混雑しており、外食などの非製造業にはまだまだ深刻さがなかったとみられる。
翌週の週末について小池百合子都知事が外出自粛を求めて以降、飲食店などの売上高は激減している。問題はこうした企業の資金繰りである。
飲食店や小売店などは日々、売り上げが入る「日銭商売」であることから通常、資金繰りに詰まることは少ない。ところが、大企業や製造業などと違って資金繰りのために手元資金を厚くしておくという発想に乏しく、売り上げが激減すると一気に資金ショートしかねない。個人自営業者やフリーランスなども同じだ。
政府は中小企業への現金給付なども検討しているが、4月末の人件費や仕入れ代金の支払いに詰まる企業が出てくることになりかねない。緊急の制度融資を政府系金融機関だけでなく、民間企業にも行わせるようにしたことは大きく、日頃付き合いのある金融機関からの緊急融資の道が開かれたが、何としてもこの資金ショートを回避し、中小零細企業の倒産を救わなければならない。