族議員がぶち上げた「お肉券」「お魚券」

そこで浮上したのが、「お肉券」や「お魚券」といった商品券を配るというアイデア。自民党の農林部会や水産部会が中心になってぶち上げた。自民党の部会というのは、業界に関わる法令の見直しや助成制度の創設に「党」として関わる組織だが、実質的にそれぞれの業界の要望を聞く場になっている。いわゆる「族議員」が活躍する舞台というわけだ。

企業の接待などが激減したことから、高級な肉や魚の消費が激減、水産業者や畜産関係業者が大打撃を受けているのは間違いない。農林部会や水産部会に所属する議員からすれば、何とか救いの手を差し伸べたいというのが本心だろう。

自民党流のいわゆる部会政治は、現場の声が議員にすぐ届くというメリットがある一方で、「鉄のトライアングル」と呼ばれた「政官業」の癒着を生む場にもなってきた。旧民主党政権では、このトライアングルを打破するために「部会廃止」を打ち出したが、逆に現場の声を聞かない独断政治だとして批判を浴びた。

今回の「お肉券」「お魚券」については、野党などから激しい批判が巻き起こった。特定の業界だけの利益につながりかねない「利益誘導」だというのである。危機を理由に特定業界がメリットを受ける助成制度は問題というわけだ。

結局、「お肉券」「お魚券」構想は頓挫し、前述の自民党政務調査会の提言には盛り込まれなかった。

麻生氏が持つ「現金給付」へのトラウマ

もうひとつ、現金給付についての政治家の議論で力点が置かれているのが「公平性」だ。

麻生太郎副総理兼財務相は国会答弁で、リーマン・ショック後の2009年に実施した一律の現金給付に触れ、「二度と同じ失敗はしたくない」と述べ、一律給付を否定した。

リーマン・ショック後には全国民に1万2000円(若者と高齢者は2万円)を配布したが、麻生氏は「何に使ったか誰も覚えていない。(国民に)受けなかった」とし、「必要なところにまとめてという方が、より効果がある」とした。

リーマン・ショック後に一律給付をしたにもかかわらず、国民に受けず、結局は政権交代に追い込まれたことから、「失敗」だと当時首相だった麻生氏の脳裏に刻み込まれたのだろう。安倍首相も現金給付について、国会答弁で「国民全員に一律では行わない」と明確に否定している。